「夫は家になかなか帰ってこない。たまに子どもの悩みを相談しても、『家庭のことはお前に任せてきたのに、何だ』という反応をされる。相談にのってくれる友だちもいない。主婦たちにとって、教団はまさに『駆け込み寺』だったわけです」
悩みを抱えた彼女たちをあたたかく迎え入れてくれたのが、同じ主婦の信者「壮婦」である。
山口弁護士によると、80年代、旧統一教会は霊感商法を盛んに行ってきた。しかし、メディアから批判され、警察も乗り出すようになると、不特定多数を対象とした霊感商法からは手を引き、新たな金の収奪方法を編み出した。
まず、選挙活動やボランティア活動に若い信者を送り込んで地域や関係機関からの信頼を醸成し、浸透する。
「そこで得た情報を教団に『ほうれんそう』(報告・連絡・相談)させて吸い上げる。それを受けて、今度は壮婦が目星をつけた家に入り込み、財産をすべて奪い取る。そういうシステムができ上がっているんです」と、いのうえさんは説明する。
この動きが顕著になったのは2000年以降だが、先祖の霊の存在を信じ込ませて不安をあおり、大切な家族を守るためといって、財産を献金させる手口は霊感商法と変わらない。
「霊感商法で壺を売ったとしても、100万円単位の金にしかならない。それよりも資産家から一挙に1億円とか10億円をむしり取ったほうが効率がいいわけです」
■今も続く「因縁トーク」
4年前、いのうえさんは久しぶりに旧統一教会のセミナーに潜り込んだ。1994年の際は道場にあふれんばかりの信者がいたが、今回、会場にいたのは60代と思われる地味な服装の主婦4人と、主催者側と思われる女性が4、5人だけだった。
講師の話が始まった。「漁師だった父親は酒飲みで、海で溺れて死んでしまいました。こんな家庭で育ったのは、ひとえに先祖を大切にしなかったからです」。
いのうえさんは「始まった! 因縁トークだ」と心の中で叫んだ。