パニック発作は、不意に理由なく生じます。発作の頻度は、大きな個人差があるようで、数カ月の間に、毎週ないし毎日発作を起こす人もいれば、1回の発作が数日間続いた後、発作のない期間が数週間から数カ月続く人もいるようです。私の場合、頻度は多くないものの、今でもふとした時に単発的に突如としてパニック発作が生じます。大学生の時は、試験勉強に追われている時に発作が起きていましたが、大学を卒業してからはパニック発作に襲われることがなくなっていたので、発作の存在をすっかり忘れていました。

 しかし、コロナパンデミックが始まり、再びパニック発作を自覚するようになりました。クリニック勤務の私は、コロナ陽性患者さんの治療に直接関わることはなかったものの、日々多くのコロナ疑いの患者さんに診察室で対面し、多くの検査をこなしてきました。

「いつコロナに(自分自身が)感染してもおかしくない」という不安感に苛まれることが次第に増えていきました。また、流行の波がやってくるたびに、発熱を認める患者さんがクリニックに殺到するようになり、気持ちに余裕がなくなっていきました。それらに加えて、外出自粛や行動制限、感染対策など、生活面での環境の変化も、私にとっては精神的な負担となり、パニック発作の再発に繋がったのではないかなと自分なりに分析しています。

 実は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによるメンタルヘルスへの影響について、すでにいくつもの調査結果が報告されています。例えば、スペインのポンペウ・ファブラ大学のJordi氏らがスペインの9,138 人の医療従事者を対象にコロナパンデミックの第 1 波における精神障害の有病率を評価したWEB調査によると、全体の 45.7% が現在何らかの精神障害を呈し、24.0%がパニック発作を認めていたといいます。

 また、ブルガリアのニューブルガリア大学のIrina氏らが、コロナパンデミック中の英国やベルギー、オランダやブルガリアなど11ヵ国の国民における心的外傷後ストレス障害 (PTSD)、うつ病、不安、パニック障害 (PD) の有病率と発生率を評価したオンライン調査によると、パンデミック中における少なくとも1つの疾患を有する割合と新規発生率は各々48.6%、17.6%であり、不安とパニック障害の新規発生率はそれぞれ8.4%、3%であったといいます。

 コロナパンデミックによるメンタルヘルスへの影響や長期的な健康影響については、これからも調査が行われていく分野だと思います。私も、自分自身のパニック発作が、コロナパンデミック宣言の終了とともに落ち着いていくのかどうか、長期的に見守っていく必要があると感じています。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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