5月19日から始まったG7広島サミットでも主要議題にあがる中国。念頭にあるのは台湾有事だ。EUもサミット前に、台湾情勢をめぐる緊張が大幅に高まる事態に備える必要があるとの見方を示した。一方、中国沿岸の目と鼻の先にある台湾管轄の離島には、ちまたで言われている“それ”とは、少し違う空気が流れているようだ。大陸に最も近い離島で何が起きているのか。旅行作家の下川裕治氏が“最前線”をルポする後編(前編はこちら)。
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台湾から200キロほど離れた金門県(金門島)は、中国大陸からは10キロ程度の距離にある。この地政学的な位置が島の社会を翻弄させてきた。海を挟んでわずか10キロ程度で台湾と中国が向かい合っているのだ。両国の緊張が高まるなか、この離島に注目が集まっている。
金門県は、大金門と呼ばれる金門島、小金門島、大胆島など12の小島で構成され、中国大陸と至近距離にありながら台湾が支配を続ける島だ。
1949年10月に、共産党との内戦に敗れた国民党軍が台湾に撤退する際には、激しい戦闘の舞台となった。その後、58年にも砲撃を受けたがしのいだ。
2001年から中国・福建省南部のアモイとの船の往来が認められ、中国と直接つながるルートとなった。
今回の取材では、アモイをより近くで見たいと思っていた。金門島からも見えるのだが、小金門島からのほうがより近くに見えると聞き、行ってみることにした。
金門島と小金門島は金門大橋でつながっている。全長5・4キロの橋がかかったのは昨年10月と新しい。金門島を出た路線バスは金門大橋を渡り、小金門島のバスターミナルに着いた。
その入り口には、
「一国兩制統一中国」
という大きな看板があった。一国二制度という中国のスローガンだ。
バスを降りると、九宮坑道という案内板があった。金門島と同じで、往時をしのばせながら、有事にも備えているという坑道だ。入り口から石段をくだると、地下水路に出た。52隻の船が停泊できる地下の軍事施設だった。外部から見えないように、武器や食糧を運び込むために掘られた水路坑道だった。