金門島の中心街。かつての金門島と比べると、街並みは台湾っぽくなった。看板の密度が教えてくれる
金門島の中心街。かつての金門島と比べると、街並みは台湾っぽくなった。看板の密度が教えてくれる

 中国の台湾周辺での軍事力強化が進み、世界的に台湾有事への関心が高まっている。4月には中国の習近平政権が、台湾の蔡英文総統の訪米に反発し、台湾周辺で軍事演習を行った。台湾が実効支配する東沙諸島や中国沿岸の金門島など、離島への進攻というシナリオはこれまでも議論されてきた。実際、“最前線”で中国と向き合っている離島の現状について、旅行作家でジャーナリストの下川裕治氏がルポした。

【貴重写真】有事の際は街中の人が逃げ込める地下の坑道。弾薬や食糧が貯蔵されている

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 今回、最初に訪れたのは、台湾からは200キロ以上離れているが、中国・福建省アモイからは10キロにも満たない金門島。

 1949年、国民党との内戦に勝利した共産党によって中華人民共和国が成立すると、国家指導者となった毛沢東氏は、台湾に逃れた蒋介石氏率いる国民党政府に対して断続的に武力攻撃を仕掛けた。58年には金門島の攻略を試み、砲撃などの武力攻撃を仕掛けたが、台湾支援に動いた米国が艦隊を送り、第2次台湾海峡危機が起きた現場でもある。今はそのとき以来の緊張関係とも言われる。

 台湾有事――。大陸の喉に刺さったようなこれらの島は、最前線になるのだろうか。そんな不安を胸に、台北の松山空港経由で金門島に向かった。

 プロペラ機に乗り、約1時間で金門空港に着いた。そこから路線バスで島の中心街、金城鎮へ。

 ●もしもの際は防空壕に

  バスターミナルに到着し、バスを降りるとにぎやかな雰囲気が漂う。カフェ、レストラン、ホテルや銀行、土産物屋などがぎっしりと立ち並んでいる。台北の繁華街のようだ。

 そんなかに、「金城民防坑道」という表示がバスターミナルの壁にあるのが見えた。坑道の入り口がここにあるようだ。

 金門島やその周辺の島では、中国からの攻撃に備え、1968年から盛んに坑道が掘られていた。金城民防坑道もそのひとつだ。ほかの坑道と違い、中心部にあるため、戦時には金門島の政治や経済機能を移す役割があった。そのため25ものシェルターがつくられているという。

金門島のバスターミナル。この左に階段があり、その先が金城民防坑道の入口
金門島のバスターミナル。この左に階段があり、その先が金城民防坑道の入口
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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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「早く来てほしいのは中国人だ」