元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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久々にラッキョウを仕込んだ。
前にも何度か仕込んだ経験があるんだが、ある年、食感グニャグニャのやつが大量に出来上がってしまい、仕方なく細かく切って調味料として使ったらラッキョウ味のオカズばかり食べる羽目になった。何しろラッキョウの風味って相当に強烈で、隠し味程度に少量入れただけで、どんな調味料も食材も凌駕してズズイと前面に出てくるのである。そのショックは大きく、以来、仕込みから遠ざかっていた。
それが急に復活したのは、グニャグニャになった原因が分かったからだ。よく行く近所のバーの名物が手作りの塩ラッキョウで、これがパリッパリで美味しいの何の。コツを聞いたら「根や芽を切りすぎないこと」。なるほど。そりゃゴミも減るし一石二鳥。ってことで早速泥つきラッキョウを買い酢醤油漬けと塩漬けに。で、さっき試しに食べたら確かにパリッパリよ! やった! それはいいんだが、容器がなくて塩漬けは袋で漬けたので密閉度が甘く、10日ほど前から家中がラッキョウ香で満たされている。やはり奴は強烈だ。早く空き瓶を調達してこなくっちゃ。
しかしこの時期はなかなか忙しい。先日梅干しも10キロ漬けたところである。このように季節の食材で保存食を作るのがデフォルトになったのは冷蔵庫をやめてからだ。冷蔵庫のなかった昔の人のやり方を真似たらこうなった。つまりは昔の人はみんなこうやっていたんである。
ところで、かくが如く保存食作りをしているというと「ていねいな暮らし」と括られて、暮らしに手間暇かけまくってる人と思われるんだが話は逆だ。1時間ほどかけて一旦仕込んでしまえば、あとは自然の力で自ずと1年分のおかずが出来上がるんだからこれほどの手抜きはない。一汁一菜とはそういうことである。菜とは漬物のことなのだ。ご飯と味噌汁さえあれば、あとは料理する必要も今日のオカズに悩む時間もゼロ。昔の人は究極に効率的。AIとかなくても十分ラクに生きていたんである。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2023年7月3日号