■母に教わった 使われる身から人を使う身に

 辞めるなら薬局をやるしかない、と決めていた。住んでいた西武池袋線の沿線でひと駅ごとに探し、手持ち資金と合致したのが、新座市の物件だ。71年6月に27歳で「池野ドラッグ」を開く。パートタイム従業員も、雇った。「人を使う身へ」の第一歩は、売り場面積わずか6坪の店だった。だが、商圏は狭く、楽ではない。「ここを出て、もっと大きくやらなければいけない」との思いが強まる。トップ1号店への離陸期間だ。

 その間、学んだことがある。新商品を売るとき、「このタイプは、あの人なら買うだろう」と客の顔が何人か浮かばなければ、やってはいけない。それだけ、客のことを知ることが、小売業には不可欠ということだ。合併や買収を重ね、全国に2751店(2月末現在)になったいまも、この池野流は同じだ。

 合併や買収は、安売りだけでは生き残れない、と悟った『源流』からの流れ。圧倒的な規模になれば、安さ以外の価値あるサービスもできる。同じ埼玉県が主戦場だったコアがグリーンクロスと合併してグリーンクロス・コアができた後、2002年3月にトップも合流した。

 3社のトップは、価値あるサービスとして24時間営業、調剤の併設、カウンセリングの3点で同意した。調剤には薬剤師か登録販売者が必要で、社員に登録販売者の資格を取らせるために受講・受験させてきた。いま2千を超える店が調剤機能を持つ。簡単なカウンセリングは、7割以上の店で実施中だ。24時間営業は288店でやっている。

「ウエルシア」の名は、業務・資本提携した流通大手イオンが使っていたのを、採用した。まず副社長に就き、グループ会社の社長となり、2010年9月にウエルシア関東(現・ウエルシア薬局)の社長に就任。2013年3月、持ち株会社ウエルシアホールディングスの会長となる。この間に株式を上場し、2022年2月期に売上高を1兆円台に乗せた。

 四つ目の価値あるサービスに選んだのは、地域貢献だ。まず過疎地などの「買い物弱者」の解消に、力を入れる。決まった曜日に移動販売車を派遣し、暮らしに必要な品々を自宅近くで買えるようにしてあげる。静岡県島田市や埼玉県長瀞町、愛知県岡崎市の過疎地で始めた。

 それだけではない。何か欲しいものを「ご用聞き」して、次のときに持っていく。病院へいけない高齢者を、市街地の医療機関につなぐ。ドラッグストアの本場アメリカにもない世界、『源流』の流れは止まらない。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年7月3日号