佐多宗二商店 佐多宗公さん(53)/フランス・アルザス研修を行った。フランボワーズを仕込んでいるところ(写真:佐多宗二商店提供)
佐多宗二商店 佐多宗公さん(53)/フランス・アルザス研修を行った。フランボワーズを仕込んでいるところ(写真:佐多宗二商店提供)
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 焼酎は「すぐに飲める手軽な」蒸留酒--。従来の感覚を打ち破り、15年ものの不二才や18年ものの晴耕雨讀など、焼酎の長期貯蔵の道を切り開いている人がいる。なぜ、固定観念にとらわれず、新しいものを生み出せたのか。AERA 2023年6月26日号から。

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「一滴も無駄にしないのか」

 樽から樽へ、原酒を移し替える。その最後のひと滴が完全に落ちるのを待つさまを見守り、佐多宗公さん(53)は感嘆した。

 時間にして20秒か30秒だが、忙しいときはつい省きたくなる手間のはずだ。それをじっと待つ。その忍耐強さに、蒸留酒造りに不可欠な精神性を感じた。造り手たちの動きに、無駄も一切なかった。

 フランス・アルザス地方のジャン・ポール・メッテは、さまざまなブランデーやフルーツブランデーで知られる。

 対して、佐多さんは創業100年を超える鹿児島県の焼酎メーカー・佐多宗二商店の代表だ。

 佐多さんは定期的にメッテの蒸留所を訪れる。今回は社員の研修も兼ね、1週間ほどの日程でやってきた。なぜなのか。

「ブランデーもウイスキーも、蒸留酒の味わいと長期貯蔵には切っても切れない関係がある。焼酎も蒸留酒でしょう。だから、ここに蒸留酒のことを学びに来ているんです」

フィリップ・トラベ氏の息子、ティモテ氏と(写真:佐多宗二商店提供)
フィリップ・トラベ氏の息子、ティモテ氏と(写真:佐多宗二商店提供)

■焼酎の長期貯蔵に挑む

 佐多さんの背中を押してくれたのは、2018年に急逝した先代のメッテの代表、フィリップ・トラベ氏だ。

──少しでもいいから、焼酎を貯蔵しておくんだ。

 鹿児島の蔵を訪れた時、そう勧めてくれた。

 蒸留酒は貯蔵時間によって変化する。夏は夏らしく、冬は冬らしく、四季を通しての気温の変化が、ゆっくりと蒸留酒を鍛え上げていく。

 だが、日本ではその年造ったものをすぐに出すのが常識で、焼酎の長期貯蔵のチャレンジをした先人はほとんどいない。2000年から、焼酎の長期貯蔵をはじめた。

「時間も手間もお金もかかる。だけど、皆さん飲んでみたいでしょう。20年もの、30年もの、100年ものの焼酎がどんな豊かな味になるのか」

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