エマニュエル・トッド氏
エマニュエル・トッド氏

 確かに、その後に出てきたロシアというのは、いわゆる西洋的な、リベラルな国ではないわけですけれども、かつてのソ連のような全体主義的な国でもないわけですね。

 プーチンは市場経済というものに反対はしませんし、むしろ経済をも軍事化してしまうことには反対しています。

 たとえば、スターリンのようにしてしまうことには、反対な立場の人間なわけですね。

 そして、プーチンという大統領は、ロシアの歴史のなかで、初めて「反ユダヤ主義」というものを持ち出さなかった人でもあります。

 さらに言えば、ロシア人も、ある程度ロシアから逃げたければ逃げることができるといったような状況でもあるわけですね。

池上 ではなぜ、そのバルト3国やウクライナ、ポーランドなどは恨みを持ち続けているのでしょうか。なぜ、根深い問題が、そこにはあり続けているのでしょうか。

トッド これは仮説ですけれども、これらの国々が、ソ連から解放されたあと、社会的、または精神的な意味での均衡というものを見いだすことに失敗してしまったからだと、私は考えています。

 たとえば、「ポーランド人である」ということはどういうことかといったときに、「カトリシズム」(カトリックの信仰)というのはあったわけですけれども、そんな宗教的な側面も、ポーランドでは崩壊しつつあった。そういった中で、社会的な均衡を見いだすことができなかったと考えます。

 また、ウクライナは、ロシアのなかで共産主義が崩壊していくという動きがあったなかで、実はその動きに対しては後れを取っていた、という歴史もありますね。

 もしかしたら、ロシアよりも、よりソ連的だったかもしれないというような側面は、あまり知られていない点です。

 ですので、バルト3国からポーランドを通ってウクライナまでというあの地域圏は、不安定化の根源と言いますか、ひじょうに不安定な地域圏だと言えると思います。

池上 ポーランドといえば、トッドさんは、ウクライナ戦争の今後の行方を見るうえで、「ポーランドには気をつけろ」と、おっしゃっていますね。どういうことでしょうか。

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中流階級が破壊された歴史