終わりの見えないウクライナ戦争。フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は、ジャーナリストの池上彰氏との対談で、ロシアやアメリカだけでなく、ウクライナの周辺にある国の動きに注目するべきだという。そこにどんな問題があるのか、『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』(朝日新書)より一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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トッド 最近になって私自身が気づき始めたことがあります。アメリカについてよく私は話をするんですけれども、アメリカ以外にも「ロシア・フォビア(ロシア嫌い)」に動かされている自立した地域圏というものがある、という点なんです。
池上 それはどこですか?
トッド バルト3国、ウクライナ、ポーランドなんです。これらの国々はですね、ひじょうに「ロシアへの恨み」というものを持っている。必ずしもその恨みは明確なものではないんですけれども、そういったもので形作られている地域圏があるわけですね。
もちろん、ロシアというものを「共産主義を築いた」とか、「独裁者スターリンを生み出した」などというようなことで批判することはできるのでしょう。
あるいは西側は、いまもそのプーチンのことをロシアの伝統の後継者といいますか、つまり帝政ロシア(18世紀から20世紀初め)の専制政治体制である「ツァーリズム」であるとか、スターリンの後継者であるというような見方というのは、いまだにあるわけです。
けれども、実は、ロシアという国は自分たちで共産主義やスターリンというものを倒してきた歴史があるということを忘れてはいけません。
そういうふうに見られることはあまりないんですけども、戦争もせずに、自分たちでそれを倒して、変化を受け入れてきたという歴史があります。
バルト3国や、ウクライナの独立も、少なくとも最初のうちは認めていたわけですよね。
それから、バルト3国とかウクライナの一部の中に、ロシア語を話す人々、つまりそういうマイノリティーを残すことも、受け入れてきたという歴史があります。