スマートフォンには多くの「旅」の写真。『源流』以前のものは入っていない。また、流氷が加わった。来年も再来年も毎年入れていきたい(撮影/狩野喜彦)
スマートフォンには多くの「旅」の写真。『源流』以前のものは入っていない。また、流氷が加わった。来年も再来年も毎年入れていきたい(撮影/狩野喜彦)
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 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA 2023年6月12日号では、前号に引き続きエステー・鈴木貴子社長が登場。鈴木社長の思い出の地・北海道網走市を訪れました。

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 北海道網走市の海岸には2月初め前後に、オホーツク海から流氷が流れ着く。ユーラシア大陸を流れるアムール川の淡水が河口で氷結し、南下しながら大きさを増してやってくる。

 ことし2月、連載の企画で、一緒に流氷の網走を訪れた。

 企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。

■沖に白く光る物 原生花園の脇で思い出をたどる

 鈴木貴子さんがビジネスパーソンとしての『源流』はこれしかない、と言い切るのが、流氷群の光景だ。37年前、それを観て「本当にやりたいことを、やりたいようにやっていく」という貴子流の「旅」が始まる。

 網走は、勤務先だった日産自動車の先輩の女性と訪れた。仕事に行き詰まり、プライベートでも悩みがあった。「日常から思い切って離れたところへいって、気分転換をしたい」と、行き先も旅程も自分が決めた。

 流氷は、岸辺まできていた。真っ青な空の下、真っ白な雪原の向こうで、ぶつかって音が響いた。「こんなに大きくて素晴らしい自然があるのか。自分がくよくよしていることなど、どうでもいいくらいに小さいな」──壮大な光景に、もやもやも悩みも上書きされて消えた。

 入社して2年目が終わるころだった。日産車の中南米諸国への輸出営業に、上智大学イスパニア語学科で学んだスペイン語を駆使して、意欲的に取り組んできた。男性社員のように担当地域への海外出張もこなした。

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