東京慈恵会医科大学附属病院管理課は「コロナ補助金に関わる取材の件について、大変恐れ入りますが、今回は回答を差し控えさせていただきたいと存じます」と取材に回答している。
一方、同大の系列病院に勤める医師は取材に、職員の人件費削減はあったと話した。
「多くの職員のボーナスは減額されて、モチベーションが下がっていました。医師に対しては、最初の2年間は年に1度、20万円の手当が支払われましたが、日々、感染対策に手間も時間もかかっていることを考えると、わずかな金額です。ないよりはいいかなと思っています。現場に利益が回ってこないのはいつものこと。あきらめています」
■ザルな交付金制度
そもそも補助金の制度設計自体の問題を指摘する声もある。
コロナ禍当初は赤字の病院が続出し、コロナ病床の確保を求める声も上がっていた。医療経済に詳しい一橋大学の高久玲音准教授は言う。
「そこで厚生労働省は病院に進んで患者を受け入れてもらうために、インセンティブ(動機付け)として病床確保料を交付しました。となると、病院は赤字を回避するために、病床確保料をもらうことになります。実際の受け入れ能力以上の病床数を申請してしまう下地を作ってしまいました」
高久准教授が言うように、病床の確保を申請しながら、実際は看護師を確保できず病床を稼働させられないまま入院要請を拒否した病院があったことも、会計検査院の調査でわかっている。
厚労省の元幹部は言う。
「病院の自己申告に基づく病床数の正確な実態を把握できないザルな交付金制度の設計自体に問題があります」
実際、病床使用率が低い大学病院もあった。入院者数が多かった第7波の22年8月17日時点で、今回の調査対象だったある大学附属病院の病床使用率は3割だった。首都圏の平均病床使用率5割以上に比べると、大幅に低い。
さらに、コロナ患者を受け入れるより、病床を空けていたほうがもうかるケースがあった。会計検査院によると、ほとんどが大学病院にあたる特定機能病院の集中治療室(ICU)、高度治療室(HCU)では、コロナ患者1人1日当たりの病床確保料上限額は診療報酬額を6万~7万円も上回っていた。6割の病院が診療報酬より病床確保料の方が高かった。
事態を受けて、厚労省は、病床確保の実態調査に乗り出した。同省医療経理室によると、結果公表の有無も含めて検討しているという。(編集部・井上有紀子)
※AERA 2023年5月29日号