1963年、週刊朝日はある“学問”の開拓に着手した。その学問はジャンプする姿でその人の性格を解明する「ジャンポロジー」。その実験、いや楽しい企画に当時を代表する著名人が協力してくれていたのだ。
「いろんな人がジャンプしたらおもしろいんじゃないかという話が編集部から、出版写真部に相談があって始まりました」
そう話し始めたのは、「ジャンプ’63」の企画で撮影を担当した一人、写真家の稲村不二雄さんである。1960年にアメリカで『ジャンプ・ブック』という写真集が発行され、一部はグラフ誌「LIFE」にも掲載され注目を集めていた。
なぜジャンプの写真を掲載したのか。撮影したフィリップ・ハルスマンによると、ジャンプする姿は、その人の内なる特性が表出され性格がわかるに違いない、まるで心理学のテストのようだという。これを「ジャンポロジー」といい、学問として開拓しようとした試みだった。
週刊朝日では東京オリンピックの前年の63年、うさぎ年にスタートした。
当時の記事には「現代日本の各界各層にわたって、第一線で活躍をつづける老若男女の思いきった跳躍の姿に、みなさまは何を、どうお感じになりましたでしょうか」とある。各界の著名人がジャンプする写真67枚が掲載され、跳んだ人の数は109人にもなる。
それにしても、ジャンプする写真を撮るという取材をよく引き受けてくれたものだ。
「編集部が了解を取っているので、あとは現場に行って撮影するだけ。ただ一人は別でした」
その人は奈良女子大学教授の岡潔氏だ。稲村さんが奈良県に住む岡氏のもとに撮影に行くと、岡氏は「くだらない企画だ、そもそもジャンポロジーとかいうのがつまらんことだ」など、1時間以上にわたって説教をした。稲村さんがもうダメだと思っていたら、
「せっかく東京から来たんだから、1回だけ跳ぼうとおっしゃったんです。もう日も暮れ始めていました」