女性アスリートには出産後に第一線に戻る選手もいるが、競技と結婚・出産との両立には依然として壁がある。35歳以上まで現役を続けた元マラソン日本代表選手の加納由理さん、東京五輪代表・競泳選手の貴田裕美さんがキャリアへの迷いや葛藤を語った。AERA 2023年5月15日号の記事を紹介する。
【写真】「Players Centered Project」を主宰する加納さんが参加者に配った手紙
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3月26日、北沢タウンホール(東京・下北沢)で、女性スポーツ選手の健康を考える「Players Centered Project」の1回目が開催された。会の冒頭、主宰者の元マラソン日本代表選手、加納由理さん(44)は会場にいる20人ほどに赤い封筒を手渡しした。
「口下手なので、手紙を書いてきました」
自称“陰キャ”の加納さんは、大の人見知りだ。話すよりも書いた方が思いは伝わると考え、会を立ち上げた思いを2日間かけて手紙にしたためた。
大学卒業後、実業団選手として活動していた加納さんは、30歳を過ぎてから疲労骨折を繰り返し、生理が1年半止まったこともあった。体力的な厳しさから35歳で現役引退を決めた。入社時に企業側と交わした契約は、「引退したら退職」だった。
「いざ社会に放り出されると、何から始めていいかわからず、自分にできるものがないと思ってしまった。引退後のイメージを持たずに35歳まで競技を続けたことを責めたこともあった」
■ケガしたら捨てられる
一般的な就職活動は難しいと思い、知人の紹介でベンチャー企業に就職。そして、加納さんはこれまでの経験を生かした活動をしたいと思うようになった。
「現役選手が、体や将来について相談できる場所を作りたい」
約9年間温めた思いが、今回のイベントで初めて形になった。
「選手は真面目な人が多く『(ケガなどで)ダメになったら捨てられる』との思いを抱えている。プロジェクト名は『選手は中心に』との思いを込めました」
現在、ランニングコーチや講演活動の仕事で生計を立てているが、「この先食べていけるのか不安はある」と胸の内を語る一面も。それでも、現役時代に自分がほしかった居場所を作ることに力を注いでいる。
笹川スポーツ財団の2014年の調査によると、女性の五輪選手の引退年齢の平均は26.9歳だ。種目や所属団体との契約内容などで立場は異なるが、20代で引退をする女性選手は多い。