■保育士の資格を取得
「周りからよく『(その年齢で)よくできるね』と言われた」と話すのは、東京五輪大会に出場後、引退した競泳選手の貴田裕美さん(37)だ。貴田さんは海や川を舞台に約10キロの距離を約2時間かけて泳ぐ「マラソンスイミング」で、過去に3大会連続で五輪に出場。アスリートとしては華々しい経歴をもつも、「36歳まで続けて、引退後に別の世界に飛び込む怖さはあった」との思いを吐露する。
20代後半になり、水泳だけのキャリアだと将来「まずい」と思った。競技に集中している分、引退後の不安は大きかったと現役時代を振り返る。
そこで、子どもが好きだったこともあり、保育士試験に挑戦することに。
朝と夜の2回の練習時間の合間を縫って独学し、実技試験に必要なピアノを習った。筆記試験と国際大会が重なってしまうこともあったが、28歳の時に資格を取得。引退後は子どもの成長に関わる仕事に就きたいと思っていたが、「結婚後に退職する人が多い現実などを聞き、資格を持っていても安泰ではないと思い知った」。
■引退直後に会社を退職
同世代の選手が次々に引退し、就職や結婚をしていく中で、「私は納得のいくまで競技をやり切ろう」と決めた。そして、東京五輪では13位の記録を残し、清々(すがすが)しい気持ちで引退した。
直後に所属会社を退職したのは、国内ではまだ認知度が低く、若手選手が少ないこの競技の選手育成に関わりたいと思ったからだ。その思いがかない、現在は日本水泳連盟で若手選手の強化戦略などを担当している。
その一方で、会社員時代はいかに恵まれていたかも痛感している。社会の仕組みを学ぶために、今年FP(ファイナンシャルプランナー)3級を取得した。
「今まで競技に人生のすべてを費やしてきたので、今後は結婚や出産も視野に入れていきたい」
(フリーランス記者・小野ヒデコ)
※AERA 2023年5月15日号より抜粋