(2)約束を守る

 約束とは、信用だ。人間は社会の中で(たとえ家族同士でも友達間でも)様々な「信用(クレジット)」の取引をして暮らしている。例えば、待ち合わせに時間通り来るかどうかのような金銭が絡まない場合でも、信用をやり取りしているのだ。

(3)人の話が聴ける

 聴く耳とは、リテラシー(理解し、活用する能力)のこと。人の話が聴けるとは、コミュニケーションのリテラシーが高いことだ。

 コミュニケーション(Communication)の語源は「communis」というラテン語だ。一方的に「伝達する」という意味ではなく、「共有する」という意味に近い。

 つまり、相手の話が聴けること、質問できること、自分と相手の共通点を見つけられることが重要だということ。自分の考えや意思を一方的に伝えるだけでは、独り言の応酬になってしまい、相手と交流していることにならない。

 もしかしたら、話のつまらない校長や授業の進行が下手な先生の言うことを聴く行為も、聴いているフリして別のことを考える技術を含めて、人の話が聴ける「耐性」を養っているのかもしれない。だとすれば、学校では10年以上かけて、忍耐力の修練をしていることになる。

 以上、学校教育のベースについて述べてみた。学校とは何か―どうやらそこには、人間の基盤となる「信用」づくりがありそうだ。

●藤原和博(ふじはら・かずひろ)
1955年、東京都生まれ。教育改革実践家。78年、東京大学経済学部卒業後、現在の株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任し、93年よりヨーロッパ駐在、96年、同社の初代フェローとなる。2003~08年、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を務める。16~18年、奈良市立一条高等学校校長。21年、オンライン寺子屋「朝礼だけの学校」を開校する。 主著に『10年後、君に仕事はあるのか?─未来を生きるための「雇われる力」』(ダイヤモンド社)、『坂の上の坂』(ポプラ社)、『60歳からの教科書─お金・家族・死のルール』(朝日新書)など累計160万部。ちくま文庫から「人生の教科書」コレクションを刊行。詳しくは「よのなかnet」へ。