この苦しみから救われたい、丈夫な体がほしいと、無惨は心から願った。そのため、主治医である「善良な医者」にすがり、差し出された薬を服用するのだが、体調は日に日に悪化していく。無惨は深く絶望し、「ヤブ医者め」と悪態をつくと、問答無用で医師の後頭部を刃物でたたき割って殺害してしまった。

■無惨の短慮

 しかし、ほどなくして無惨は自分の短慮を後悔することになる。アニメ最終話の無惨の言葉のとおり、この薬はたしかに「効いて」いたのだ。

<けれども その医者の薬が 効いていたというのがわかったのは 医者を殺して間もなくのことだった>(15巻・第127話「勝利の鳴動」)

 しかし、治療は「医師殺害」というショッキングな事態をもって、無惨自身の手で中断された。医師の薬はなお未完成な状態で、「人体が鬼化する」という大きな問題点が解決されぬままの投薬だった。この「善良な医者」が、「鬼化」について何らかの対処方法を持っていたのか、それとも想定外の副作用だったのか、医師が死んでしまった今となっては、それ以上のことは分からない。無惨には「強靭な肉体」と「鬼としての生」だけが、中途半端なかたちで残された。

■果てしなくふくらむ無惨の欲望

 無惨の変化は肉体だけではなかった。ひとまずは丈夫になったことを喜びながらも、生への執着はより肥大化した。鬼化後に、日光にあたると自分の肉体が消滅してしまうことを悟った無惨は、「丈夫な身体で、半永久的に、夜に生きる」ことをあえて選ばず、太陽を克服して、「完璧な鬼」になることを目指すようになったのだ。

<昼間の内 行動が制限されるのは屈辱であり 怒りが募る>(15巻・第127話「勝利の鳴動」)

 病の苦しみから逃れたいという、人間らしい「当たり前の願い」は、鬼化後には「不老不死」という壮大な“わがまま”へと転じる。人間を食料とすることへの罪悪感はなく、仲間の鬼を増やしても、同族の彼らですら「太陽克服の方法を探る手段」でしかなかった。

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太陽に焼かれる=鬼としての死