【※ネタバレ注意】ネタバレを避けるため、太陽克服のもう1つの事例については論じていません。
「刀鍛冶の里編」の最終話が18日に放送され、映像の美しさ、声優たちの名演、吾峠呼世晴による原作の魅力が改めて話題になった。鬼の禰豆子は陽光に焼かれてしまい、全身にすさまじい火傷をおったが、それでもなお兄と他者を助けようとする懸命な様子が、人々の心を打った。この経験をへて、禰豆子は「太陽」という鬼の弱点を克服する。それを知った鬼舞辻無惨は、陽光を無効化した禰豆子を吸収して、みずからが「完璧な鬼」になるのだと宣言した。しかし、ここでひとつの謎が残る。禰豆子は日光を克服できたのに、最強の鬼であるはずの無惨には、なぜそれができなかったのだろうか。
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■“病弱な”鬼舞辻無惨のコンプレックス
鬼という「生物」の頂点に立つ鬼舞辻無惨は、他の誰よりも相貌が際立っている。鬼殺隊からの追跡を避けるため、彼はときおり擬態するが、端正な青年、芸妓ふうの美しい女、利発な少年など、いつも華やかな外見ばかりを選び、醜い姿や病人、老人などに化けることはなかった。
無惨が美貌に自負を持っていたことは間違いないが、自分が考える「肉体的なマイナス要素」をことさらに避けていたようにも見える。ある時、彼は酔っ払いから「今にも死にそうじゃねぇか」とからまれたことがあった。最初は人間のふりをしていた無惨だったが、この言葉を聞くやいなや、彼らを殺害してしまう。
「私の顔は青白いか? 病弱に見えるか? 長く生きられないように見えるか? 死にそうに見えるか? 違う違う違う違う 私は限りなく完璧に近い生物だ」(鬼舞辻無惨/2巻・第14話「鬼舞辻の癇癪・幻惑の血の香り」)
青白い、病弱、短命……無惨が何よりも嫌いな言葉だった。
■人間・鬼舞辻無惨の願いと絶望
なぜ無惨があれほどまでに「病弱さ」を気にしたのか? 1000年も昔のこと、まだ人間だった無惨は、肉体が極めて弱いこと、普通の人よりも寿命が短いことを医師から告げられていた。生まれたその日から、無惨には“死の影”がつきまとっていたという。