2022年12月22日、安倍元首相の「国葬儀」について、政府による有識者への意見聴取の報告書が公表された。

 国葬儀実施の意義については、「大きな業績を残した総理大臣経験者に対する国の礼遇で、国民が心を合わせ故人を偲ぶということに一定の意義があった」とする肯定論の一方、「誰に弔意を表すかは個々の国民が判断すべきことで、国民の間に対立、しこりだけが残る負の遺産を生んでしまった」という否定的な意見など、各論点で両論に分かれて整理された。国葬儀の実施に当たっての法的根拠の必要性については、

・行政権の行使であり、法律上の根拠は必要ない

・行政権に属し、(国民の自由や権利を制限するためには、法的根拠が求められるという)侵害留保説に立てば、閣議決定で決められる

・重要事項留保説に立っても、一度限りの儀式を行うことは法的議論として重要事項にも当たらず法律上の根拠は必要ない

・政府による国葬儀の理解(「国葬儀とは、国の儀式として行う葬儀」)からすれば重要事項に当たる可能性は低い

・国葬儀は民主主義社会における重要事項であり、法律の根拠を要すると解すべき

 などと整理されている。いずれの意見も、現行法上は、「国葬実施について法令上の根拠はない」との前提での「法令上の根拠」を設けることの要否についての意見だ。

 つまり、ここでは、内閣府設置法が国葬実施の「法令上の根拠」になるかどうかなどという話は全く出てこない。

 しかし、国葬実施まで岸田首相は、繰り返し、内閣府設置法を「法令上の根拠」のように説明していたのである。

 岸田首相の安倍氏国葬への対応を振り返ると、ほとんど「安倍支持者」と一体化して、その意向に沿ったものだったことは明らかだ。そして、「法令上の根拠」にこだわり、「法令に則っていること」を、批判者に対する反論の根拠にする姿勢は、安倍氏の手法そのものだったと言える。

 旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)問題、政治とカネ問題での相次ぐ閣僚辞任、防衛費増額のための増税発言などで、支持率が低迷している岸田政権にとって、政治基盤となっているのが、衆参両院ともに安定多数を占めていることによる「多数決で押し切る力」である。それは、安倍氏銃撃事件の影響もあって2022年7月の参議院選挙が自民党の圧勝に終わったことによるものだった。それに加えて、「安倍政治」から引き継いだのが、批判者に対して「法令遵守」を根拠に反論する手法だと見ることができる。

●郷原信郎(ごうはら・のぶお)
1955年生まれ。弁護士(郷原総合コンプライアンス法律事務所代表)。東京大学理学部卒業後、民間会社を経て、1983年検事任官。東京地検、長崎地検次席検事、法務総合研究所総括研究官等を経て、2006年退官。「法令遵守」からの脱却、「社会的要請への適応」としてのコンプライアンスの視点から、様々な分野の問題に斬り込む。名城大学教授・コンプライアンス研究センター長、総務省顧問・コンプライアンス室長、関西大学特任教授、横浜市コンプライアンス顧問などを歴任。近著に『“歪んだ法"に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)がある。

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