これについては、例えば、「国葬法」という法律を国会が定めて、「在任期間何年以上の総理大臣経験者については国葬を行う」と規定していれば、その「立法」により、国葬が「決定」される。また、国葬が実施されようとした時に、憲法違反だとしてその差し止め訴訟が提起され、差し止めるとの判決が最高裁で確定した場合には、国葬を行わないことを「司法」が「決定」したことになる。

 岸田首相の説明は、「儀式の実施」と「儀式の決定」とを敢(あ)えて混同させようとするものだった。

 国が行う儀式として「戦没者追悼式」「東日本大震災追悼式」などがあるが、これらは、いずれも「内閣の行う儀式」である。「国事行為としての儀式」以外の「国主催の儀式」というのは、「内閣の行う儀式」と解するべきだ。

 内閣の行政権の行使として「儀式」を行うことはできるが、それは「内閣が行う儀式」であり、「国の儀式」としての「国葬」とは異なる。戦前の「国葬令に基づく国葬」とは異なり、「国葬儀」と称して内閣の決定だけで行った吉田元首相の「国葬」に対しても強い批判があったり、その後の佐藤元首相については「国民葬」、それ以外の元首相については「内閣・自民党合同葬」で行われている。そのような経緯からも、内閣として行い得るのは、法的には「内閣葬」に過ぎないという理解が常識的だった。

 岸田首相が言うところの「安倍元首相の国葬儀」は、「内閣葬」を「国葬儀」と称し、あたかも「国葬」であるように偽装したということなのである。

■玉川徹氏の訂正と謝罪

 国葬への反対意見は日を追うごとに高まり、直前の世論調査でも、反対が賛成を大きく超えたが、岸田首相は、2022年9月27日、日本武道館での安倍元首相の「国葬儀」を強行した。

 安倍元首相の国葬を実施する理由や、法律上の根拠等について、国民を二分する議論になっていたが、実際に葬儀が実施されると、「菅前首相の弔辞が感動的だった」「多くの人が長い列を作って一般献花に訪れた」などという話が中心になり、国葬そのものをめぐる議論は棚上げになった。

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テレビ朝日への政治的圧力