テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」のレギュラーコメンテーター玉川徹氏が、安倍元首相の国葬における菅義偉(よしひで)前首相の弔辞に関して、翌日の9月28日の番組で、「電通が入っていますからね」と発言した。ところが実際には、電通は国葬に一切関わっていないことが判明し「電通の関与」が真実ではなかったことについて訂正・謝罪放送が行われた。玉川氏自身も訂正・謝罪し、それに加え、10日間の謹慎処分を受け、番組関係者に対しても社内処分が行われた。
テレビ朝日がそのような対応を行ったことの背景には、自民党国会議員からの強い反発があった。「政治的圧力」をかける発言を公然と行っていたのが、自民党の西田昌司(しょうじ)参議院議員だった。西田議員は、玉川氏の発言に関して、テレビ朝日に、菅前首相と安倍昭恵氏に謝罪するよう求めた。それは、玉川氏が、「菅氏の弔辞が他人の演出で作られた」という発言をし、それが真実ではない発言だったことで、菅氏と安倍元首相の葬儀の喪主である昭恵氏をも傷つけた、ということを前提にしていると考えられた。
しかし、玉川氏は、今回の安倍元首相の国葬も、大規模で荘厳な葬儀・儀式であり、その中で、菅前首相の「心情を吐露した」弔辞は「胸に刺さる」と評価した上で、ただ、それは、全体として「胸に響くように作られた国葬という儀式の一コマだ」という趣旨で発言したもので、映画などを含め、大規模なイベント、コンテンツの制作を行う側として一般的に行われる「演出」のことを意味していたと考えられる。「菅氏の弔辞が演出のために他人が作ったもの」という意味ではなかった。
西田議員が「菅前首相や昭恵氏への謝罪」を求めるのは、発言の趣旨を誤解し、誤った批判によってテレビ朝日に政治的圧力をかけようとするものだった。
しかも、もし玉川氏の発言を、「菅氏の弔辞が演出のために他人が作ったもの」という趣旨ととらえて、テレビ朝日に調査や訂正・取消を求めるとすれば、調査を請求できるのは、放送法9条1項により、「権利の侵害を受けた本人」又は「直接関係人」であり、菅氏本人のほか、国葬の葬儀委員長である岸田首相、あるいは、喪主の昭恵氏ということになるが、それらの人たちから、テレビ朝日に調査の請求が行われたという話はなかった。