内田舞(うちだ・まい)/1982年、神奈川県生まれ。小児精神科医、ハーバード大学准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長で3児の母。2007年、北海道大学医学部卒。11年、イェール大学精神科研修修了。日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医に(撮影/岡田晃奈)
内田舞(うちだ・まい)/1982年、神奈川県生まれ。小児精神科医、ハーバード大学准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長で3児の母。2007年、北海道大学医学部卒。11年、イェール大学精神科研修修了。日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医に(撮影/岡田晃奈)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 炎上や論破ゲームに乗らず、分断と差別を乗り越えるためにはどうすればよいのだろうか。ハーバード大学准教授で小児精神科医、脳科学者でもある著者の内田舞さんは、心と脳のメカニズムに立ち返りながら、未来に希望の種をまこうと呼びかける。社会と女性の問題をあらたな視点で考え、勇気づけてくれる『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』。内田さんに同書にかける思いを聞いた。

*  *  *

「『ソーシャルジャスティス』を日本語にすると『社会正義』です。硬い印象を持つかもしれませんが、アメリカでは日常的な言葉で、私自身も若い頃から大事にしてきた考えなので、本のタイトルにしたいと考えました」

 笑顔で取材に応じてくれた内田舞さん(40)は、ハーバード大学准教授。脳科学者でもあり、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長として働いている。3人の男の子をチェリストの夫とともに育てている母親でもある。

「人口の8割が人工妊娠中絶に賛成しているにもかかわらず、昨年、アメリカでは約半数の州で人工妊娠中絶の選択の権利が奪われてしまいました。ショックな出来事でしたが、医師たちはもちろん、ディズニー、マイクロソフトなどの大企業や多くの大学、さらに米国産婦人科学会も即座に強い異議を唱えています。大規模なデモが起こったおかげで、保守派であるカンザス州では住民投票の結果、中絶権が守られることになりました。こうした『何かを良い方向に動かしたい』と社会に働きかける行動のもとにあるのがソーシャルジャスティスです。政治的決定を変えるために声をあげて、動く人がいることはアメリカの大きな希望だと思います」

 初の単著となる本書は「炎上はなぜ起きるのか」「差別と分断を乗り越えるために」「女性小児精神科医が考えた日本社会への処方箋」という3部で構成されている。どのテーマも内田さん自身の経験、揺れる感情が率直に書かれているのが新鮮だ。そこから脳科学者・精神科医としての知見、困難の乗り越えかたへと進む道筋に読者は共感するだろう。

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