
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
俳句文芸誌「俳句」に、2018年から23年の間に別冊付録等で掲載された12の句をもとにした12の短編小説を単行本化。俳句からのインスピレーションで生まれた物語は、社会派、サスペンス、ホラー、SFなどジャンルは多岐にわたる。1話ごとに織り込まれている挿絵も、読み手の想像を深めてくれる要素になっている。『ぼんぼん彩句』の著者の宮部みゆきさんに同書にかける思いを聞いた。
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宮部みゆきさん(62)の最新作は、社会派、サスペンス、SFなど異なるジャンルの12の短編物語だ。それぞれの短編のベースとなったのは、なんと12の俳句だった。
「読み手を驚かすのが楽しみ。私、ミステリー作家なので」
そう笑って話す宮部さんは10年ほど前、俳句関連の本と出会ったのをきっかけに、17音と季語によって表現する世界に興味を持ったという。
「漢字か、ひらがなを使うかでも奥行きを出せる。俳句は手品みたいだと感じています」
自らも同世代の仕事仲間を中心に句会を開き10年。切磋琢磨しながら作句を続けている。本書のアイデアが浮かんだのは、高校生の俳句コンクール「俳句甲子園」を見たときだという。「俳句を小説の仕事にも生かしたい」と俳句をテーマにした短編小説を書くことにした。
短編小説の元になった俳句は宮部さんの句会仲間が作ったもの。春夏秋冬の各季語を使った句の中から、「物語を書きたい」と思う12句を選んだ。登場人物たちを読者の身近な人に重ねて読んでもらえたらと、あえて詳細な描写は書かなかった。
その中の一句「薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ」について宮部さんは「立ち去っていったのが人なのか、人ならぬものか、という点が魅力的でした」と話す。この句から女性の雰囲気を感じたことから、小説では「優しい幽霊」を登場させ、句の作者を驚かせた。