全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年5月22日号には国分グループ本社 商品開発部 部長 織田啓介さんが登場した。
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1缶500円から高いもので1万5千円の、缶詰のおつまみシリーズ「K&K缶つま」を開発した。発売当初は、売り上げが前年比の300%にまで成長。缶詰のイメージを一気に変えた。
ご飯に合う一品ではなく、「お酒に合うおつまみ」。価格の枠にとらわれず、美味しさをひたすら追求した。自分の足を使って綿密にマーケティングを行った。スーパーでの陳列を酒類の棚の横にしたことで、手に取る人が増えた。
「缶詰だから安くなきゃというのが嫌だったんです。100円で販売するためには原料をキロ10円で仕入れて、というセオリーをあえて無視しました」
開発ではまず、素材を厳選。シャコは小樽産、牡蠣は広島県産と、これこそはと思う食材を見つけ、全国津々浦々、漁業者に直接仕入れの交渉をした。職人気質な世界だが、北海道大学の水産学部で学んだ魚の豊富な知識と、商品開発にかける情熱でハードルを越えてきた。ある時、10年かけて絶滅の危機にあるブルゴーニュ種エスカルゴの養殖に成功した日本人の生産者に出会った。素材提供だけでなく、彼が研究しつくした本場フランスにも勝るバター調理のレシピに惚れ込み、意気投合して商品化した。織田さんのこだわりはネーミングにも及ぶ。「エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ~オリジナルバターソース使用~」のように、産地だけでなく、思わず食べてみたくなるものを考案する。
製法にも余念がない。どんなに逸品の素材でも、缶詰にできないものもある。最も重要なのが食感で、茹でる、焼く、蒸すなどして、硬さや舌触りを見極め、添加物は極力使わない。「広島県産かき燻製油漬け」は、燻油ではなく、実際に桜のチップで燻して作る。
イベントでお客様から“カメノテ”を缶詰にしてほしいという要望があり、トライしたが、加工過程の課題が解決できず、断念したこともある。
食べた瞬間「酒が飲みたくなった」と言われると、成功したと思う。多くの人に食べてもらいたいというよりも、その人が求めている味の価値にふさわしいものを作り出すことを徹底している。
次なる目標は、加熱殺菌をする缶詰では再現できない、低温環境でチップを燻す技術を使った「冷燻」や、魚卵のチルドおつまみを作ることだ。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2023年5月22日号