スペインのゲルニカという町はピカソの絵で有名だが、ドイツ軍が一九三七年に一般人を含む無差別爆撃をした現場を一部そのまま残している。スペインの旅の途中、ゲルニカの平和資料館に寄り、私たちが歩くガラス張りの床のすぐ下に、当時のがれきがそのままで残されていたことが忘れがたい。
館長はヒロシマの資料館を見てきた直後だという。私は、当時のゲルニカを再現した展示に感動したことを告げた。
年を経るほどに変化することは仕方ないこととして、出来るだけ当時に近い状態で戦跡を残すことが、戦争を美化せぬために大切なのだと思う。
今週で週刊朝日が最終回になるが、その時々の私の正直な想いを少しでも伝えられたかどうか。いくらチャットGPTの時代になろうとも、人の想いはAIと共有することは出来ない。私は私の感覚を言葉にしたい。
「ハナニアラシノタトヘモアルゾ 『サヨナラ』ダケガ人生ダ」中国の于武陵(うぶりょう)の詩を井伏鱒二が訳した言葉を最後に贈りたい。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2023年6月9日号