
イタリア中部、見晴らしのいい丘の上にある小さな古書店。主のリベロのもとには、隣のカフェで働く青年ニコラや常連客らが顔を出す。ある日、リベロは店先のワゴンを熱心に眺める移民の少年エシエンに出会う。「本を買うお金がない」というエシエンに、リベロは本を貸すようになり──。連載「シネマ×SDGs」の44回目は、店主と移民の少年が本を通じてあたたかな絆を作る「丘の上の本屋さん」のクラウディオ・ロッシ・マッシミ監督に話を聞いた。

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この映画は「愛の物語」にしたかったんです。本への愛だけでなく、文化への愛、隣人への愛。そしてその愛は自分より恵まれない隣人へと向かいます。リベロが移民の少年エシエンに向けたように。

ご存じのようにイタリアでは近年、移民問題が大きくなっています。多くはアフリカから海岸に辿り着いた人々で彼らを助けないことは人道的にも許されない。しかし違う文化を自国に受け入れることに抵抗する人もいます。でも人間は全て世界の市民です。私はこの問題の解決を強く望んでいます。

リベロはエシエンに一冊ずつ本を貸し、知と学びの扉を開いていきます。これは私自身が本に囲まれて育った経験が大きいです。両親、特に私の父は読書家で、家には1万3千冊以上の本があったんです。劇中に登場する本はイタリアでは古典的に子どもに与えられるものです。特にエシエンの成長に大きな役割を果たすのは『星の王子さま』でしょう。私自身に影響を与えた一冊を選ぶなら、映画には登場しませんがガルシア・マルケスの『百年の孤独』ですね。

世界中と同じくイタリアでもwebメディアの影響で紙の本を求める人が減っています。書店の多くは閉店、もしくは街のショッピングセンターの中に組み込まれ、リベロの店のような人々の拠り所となる街の本屋はなくなっている。ただコロナ禍で人々が読書の習慣を少し取り戻した状況もありますよね。読書の習慣だけは失わないでほしいです。本には一冊ずつ違うことが書かれています。人が日常生活で出会う人や経験とは桁違いの出会いが、本にはあります。人間に一番大切なものは愛だと感じてもらうこと、そして自分をより良いものにするために読書がいかに大切かを、映画から感じてもらえたら大成功だと思っています。(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年3月20日号

