中央大学文学部心理学専攻の山口真美教授によると、前提として、もともと欧米人は口元でコミュニケーションを取るのに対し、日本人は目元でコミュニケーションを取ってきたことが、マスク依存が広がった要因の一つだと考える。そのうえ、マスクをしている相手と向き合うとき、私たちは隠された部分を「平均顔」で補おうとする。平均顔とは、これまで出会った人々、目にしてきた顔の中央値として、自動的に頭にインプットされているものだ。だからこそマスクを外した際、想定と実物が異なれば、違和感を抱くようになる。
「自意識が育まれていく時期、とくに中高生にとっては『顔は自意識の延長』という感覚が強いため、大人よりナーバスになり、『否定されるのはつらい』という意識が働く。また、子どもの3年間と大人の3年間では、人生に占める割合が異なるため、ある日を境に外すことに恐怖を感じるのは、自然なことなのかもしれません」
■未来の話をしてみる
そうした気持ちには、どのように寄り添うべきなのか。
「マスクとともにあった社会は、『いま、感染症を防がなければ』といったように、常に『いま』しか考えられなかった。けれど、子どもたちには未来がある。マスクをしたままでは交友関係は狭まるかもしれない、年を重ねてもマスクをしているのかな、と、少し未来の話をしてみるのもいいかもしれない」(山口教授)
一般的に、人間は20歳頃までに500人ほどの顔を覚えており、そのなかから時間をかけ親しい人、友達になる可能性のある人と関係を構築していく。
「目、鼻、口を見て『顔』と認識するわけですが、マスク生活で人間関係の広がりやポテンシャルを学習する機会が失われている可能性があります。いろいろな顔を見ることにより、人間のつながりはできていく。子どもたちがこれから先、どのように過ごしていくのか、注意深く見守っていく必要があると思います」(同)
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2023年3月20日号より抜粋