今年で作家歴47年目を迎えた著者の生い立ちから今までの半生と作品にまつわるエピソードを綴ったエッセイ集。幼少時には幾度も死の危機を経験し、「いきなり露呈した非現実」を何度も目撃してきた。
 7歳で空襲により生家を焼かれ、高度成長期の区画整理により長年住んだ土地を変えられてしまったと語る著者の記憶は、同年代の人であればたいてい共有されているはずだという。何度か大病を患って死に瀕していた時は、偶然にも「世の中の変動やら異変やらと、とかく時期を前後」した。そのため、本書には朝鮮戦争、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、9・11テロ、リーマンショック、東日本大震災など、読者と共有し得る記憶が随所に織り交ぜられている。
 読み進めていくうちに、古井自ら「おかしな表題」と評する『半自叙伝』には、ここに綴られている記憶の「半分」は読み手のものだ、という意味が込められているように思えた。本書は、著者と読者との記憶の間に「そのつどつかのまながら生じる、共鳴の感触」を感じさせている。

週刊朝日 2014年5月2日号