人はいつか死ぬ。このことを、ちゃんと意識したのは何歳のときだったろう。
『かないくん』は死をテーマにした絵本だ。文章は谷川俊太郎。絵は松本大洋。
 語り手は小学生である。かないくんは学校で隣の席にいる子。でも欠席がつづいている。かないくんは入院し、やがて亡くなってしまう。それからしばらくたち、かないくんを思って泣いていた同級生たちも、彼のことを忘れたかのように遊んでいる。
 ここまでが前半である。後半に入ると、じつは前半のお話は、老絵本作家が描いたスケッチだとわかる。語り手は絵本作家の孫だ。スケッチは少年が死とは何かを考えるところで止まっている。絵本作家はガンが進行していて、もう来年の桜は見られない。
「死を重々しく考えたくない、かと言って軽々しく考えたくもない」と絵本作家はいう。自分の死を前にしても、まだ物語をどう終えるかがわからない。
 なんてすごい絵本なんだろう。読み終え、本を閉じたあとでも、ずうっと「死とは何か」と考えさせる。
 松本大洋は『鉄コン筋クリート』や『ピンポン』などで知られる漫画家だ。彼がこんなに静かで美しい絵本をつくるとは驚きだ。谷川俊太郎がひと晩で書いたお話に、松本大洋は2年かけて絵を描いたのだという。それだけの時間の厚みが伝わってくる。
『かないくん』を読んでいて、ぼくも小学校2年生のときに亡くなった級友を思い出した。かずやくんは、自宅のそばで材木を運ぶトラックにはねられて死んだ。学校に水仙の花を持っていってかずやくんの机に飾ったこと、先生が泣いていたこと、みんなで葬式に行ったことなどを思い出した。
 ぼくにとって、かずやくんの死が、生まれて初めて実感した死だったのかもしれない。
 この絵本を読んだ人は、きっと誰か死んだ人のことを思い出すだろう。死者はぼくらとともにいる。

週刊朝日 2014年2月21日号