酒井さんがAPS-Cサイズが気に入ってツアーに携行し、撮影しているニコンD90。レンズは最近ハマっているというマニュアルのカール ツァイス、ディスタゴン28ミリF2ZFと超広角ズーム、シグマ8~16ミリF4.5~5.6(左)。広い画角が好きだという
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レコーディングスタジオで作業終了後にミキシングコンソールに近づいて、シグマ8~16ミリF4.5~5.6で撮影。整然と並ぶスイッチ類を都市のビルに見立てたという。超広角の使い方が巧みで、独特のパースペクティブにより強烈な印象を与える作品になった
昨年秋のツアー中に気仙沼市の居酒屋でとらえた一枚。漁港に近い焼き魚の名店だという。「圧巻のサンマで、いかにおいしかったかが少しでも伝わるように撮った」というように、絶妙の構図でとらえられたサンマの色つやと囲炉裏の火から極上の味わいが伝わってくる
今年5月、ファンクラブのツアーで宿泊したホテルの部屋からハワイ・ワイキキのビーチを撮影。PLフィルターの練習も兼ね、テーマは青の色彩という。空と海に溶け込んだ多彩な青が繊細に描写され、とても美しい。水平を傾けて雲を入れ込んだ構図も斬新だ

――もともとはフィルムカメラを使われていたそうですが。

 コンタックスT3だったか……はっきり覚えていないんですけど、もう20年近く前のことですね。さらに学生時代、ちょうどゴスペラーズに加入して活動を始めたころに、トイカメラのロモを手に入れて遊んでいました。

――写真やカメラは昔から好きだった?

 それがそうでもなくて。9歳年上の兄は大の写真好きですが、ぼくはその影響をあまり受けずにもっぱら被写体役でした。それでも、学生時代にちょっと写真の面白さに触れたんですが、あまり続かなかった。フィルムカメラを使っていたころは、現像に出して戻ってくるたびに「ああ、また裏切られた」っていう感じで、毎回失敗写真を生み出していましたから、自然と遠ざかってしまったんです。

――それがなぜ。

 きっかけはゴスペラーズのツアー旅日記をオフィシャルサイトに掲載するときに、写真を撮るようにと言われたことです。2004年ですね。当時はちゃんとしたカメラは持っていなくて、携帯電話で撮っていました。そもそも、なんでぼくが指名されたのかわからない。写真に興味があったり、ちゃんとしたカメラを持ってるメンバーもいたんですよ。だから「なんでオレ?」って思いましたね。それでもツアーの合間に結構な数の写真を撮って、それなりに工夫してシャッターを切っていると「あ、やっぱり好きかも」って思えるようになった。本来、機械ものというか、ガジェット(電子機器)好きの性格ですから、凝りだすと面白くなってカメラ付き携帯では物足りなくなり、ライカD-LUX3を手に入れてツアーの様子を撮影していました。

――一眼レフにはいかなかったんですね。

 一眼レフの大きさや重さに抵抗がありました。ぼくらは被写体になることも多いですが、一眼レフの大きなレンズを向けられることにいまだに慣れないんです(笑)。それに街なかで一眼レフを構えていると、おまわりさんや警備の人たちに何か言われそうで。「一眼レフは勘弁してください」って思ってました。(笑)

――それがついに一線を越えましたね。

 昨年の4月ですね。カメラ店に行って見ているうちに、APS-Cサイズのデジタル一眼レフならしっくりくるなと感じたんです。大きなカメラには抵抗があったけど、このくらいならいいかなって。ニコンを選んだ理由は単純で、ツアーに帯同しているカメラマンがニコンユーザーだったので、何かわからないことがあったらすぐ聞けると思って。あと、シャッター音がしっくりきたんですよ。

――そして今は、カール ツァイスレンズを使うほどのマニアに。

 まだまだマニアではないですが、レンズはそろえると面白いですね。最初はシグマの17~70ミリのズーム。それから8~16ミリの超広角ズームも手に入れました。ツアーで訪れるコンサートホールの写真を撮るのに最適です。ニコンの70~300ミリは日本武道館のてっぺんのタマネギを撮るのにピッタリ(笑)。で、次は単焦点だろうと入手したプラナー50ミリは前の型でCPUが内蔵されていないタイプでした。買うときはMFで大丈夫かなと不安だったけど、がんばっちゃおうと。フィルムで挫折していたぼくがこんなにハマるなんて不思議ですが、数撃ちゃ当たる戦法で撮っていると、「これだっ!」という一枚に出合うときがある。それがマニュアル露出で撮れたときは、「ニコンのオートに勝ったな」なんてほくそ笑んだりして。(笑)

――もう一度フィルムへは?

 怖いです(笑)。まだぼくなんかが、フィルムという深遠な世界を語ることなんてできないですよ。それでも徐々に包囲網は狭まってきていて、先日も坂崎幸之助さんからたっぷりとお話をいただいたり、田中長徳さんがぼくのツイッターをフォローしてくださっていたり……フィルムの世界に飛び込むのも時間の問題かもしれません。まだ踏みとどまっていますが。(笑)

※このインタビューは「アサヒカメラ 2010年10月増大号」に掲載されたものです

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