滝口悠生(たきぐちゆうしょう)/ 1982年、東京都生まれ。2011年に「楽器」で新潮新人賞、15年『愛と人生』で野間文芸新人賞、16年に「死んでいない者」で芥川賞、22年『水平線』で織田作之助賞。その他の著書に『茄子の輝き』『長い一日』など。(撮影/映像報道部・川村直子)
滝口悠生(たきぐちゆうしょう)/ 1982年、東京都生まれ。2011年に「楽器」で新潮新人賞、15年『愛と人生』で野間文芸新人賞、16年に「死んでいない者」で芥川賞、22年『水平線』で織田作之助賞。その他の著書に『茄子の輝き』『長い一日』など。(撮影/映像報道部・川村直子)
この記事の写真をすべて見る

 仁と茜の夫婦はロンドンで仁の高校時代の友人の結婚式に出たあと、イタリアのペルージャに茜の友人を訪ねる。彼女はブラジル人の夫と娘と山の中で暮らしていた。

「自分の旅行の経験がもとになっています。これまでの作品でいちばん自分に近いところを書いているかもしれません」

 そう話すのは『ラーメンカレー』(文藝春秋、 1870円・税込み)の著者、滝口悠生さんだ。全10編の連作小説の前半はこのイタリアの話、後半は一緒にロンドンの結婚式に出た友人の窓目くんの手記になっている。

 窓目くんはパーティーでシルヴィという女の子に迫られ恋に落ちる。東京に戻ると翻訳ソフトを駆使してSNSで連絡を取り合い、再会のときを迎えるのだが……。

 窓目くんのモデルは滝口さんの高校の同級生。20年来の親友だ。

「僕は今まで小説に自分のことはあまり書いていなくて彼の話が題材になっていることが多いんです。実はほとんどの作品に彼が関わっています」

 普段の言動も恋愛に突っ走るところもユニークな窓目くんだが、彼の面白さを小説で書き切るのは難しい。ならば彼に任せてみようと今回は手記を書いてもらった。

 最初は手記をそのまま掲載して原稿料を山分けするつもりだったが、結局、滝口さんがリライトした。手記の読み手で小説の著者の自分が間に入る形のほうがいいと思い直したからだ。彼には原稿を確認してもらい、「ここは俺の知っているシルヴィと違う」と指摘されて直したところもある。

次のページ