山崎医師
山崎医師
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 自身もステージ4の大腸がんと闘う山崎章郎医師(75)。緩和ケアの第一人者であり、患者に寄り添う山崎医師は、死への受け入れ方を説く。

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 山崎さんは自分がステージ4のがん患者であることを、訪問診療の患者に伝えている。軽やかな調子で「どっちが先になるかね」と言うと、「先生、ちゃんと私のこと看取ってね」と不満そうな反応が返ってくる。「たぶん看取れると思うけど、先になったらごめんね」などと会話を楽しんでいる。

「死を間近にした患者さんの多くは、死は終わりでなく来世があると考えています。先立った人と再会できることに希望を抱きながら、その時を待っているのです。私は死後の世界はあるべきだと思っています。死後の世界があることによって私たちは死という厳しい現実に直面できるのだろうし、残された人たちもその後の人生を生きていく力になるのです」

■自宅での看取り家族の絆深めた

 亡くなったらどうなるかとの問いに、患者のなかには「死んだら無になる」と言う人もいる。山崎さんが「でも、もしも来世があるとしたら会いたい人はいますか」と問うと、「おふくろに会いたい」と答えた。

「2週間後、訪問診療に行くと患者さんのほうから『先生、まだおふくろが迎えに来ないんだよ』と言うんです。私は『急がなくてもいいんじゃないですか』と言って、互いに笑い合いました。死は消滅ではなく新しい世界に旅立つことだと考えれば、死について語ることが変に緊張したものではなくなるのです。ご遺族も喪失感から深い悲しみに暮れるわけですが、先に逝った人はちゃんと見守ってくれていると思えば、生きていくための大きな縁になるでしょう。毎日仏壇に向かって話しかけているとか、いつもそばにいてくれると感じている人もいます」

 都内在住の深見泰子さんは「私たちにとって山崎先生やクリニックの看護師さんたちは、ファミリー同然です」と語る。

 昨年12月、深見さんは母・信子さん(享年74)を在宅で看取った。信子さんは15年に右手の親指の爪先にメラノーマ(悪性黒色腫)を発症した。指先を切除後、大学病院で免疫チェックポイント阻害薬オプジーボの臨床試験に参加する形で治療を受けた。20年12月に心臓への転移が見つかり、手術を受けた。深見さんがこう語る。

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