タイトルは忘れたが、古典落語『らくだ』における数名の噺家の比較論みたいな内容だった。ちゃんとしてそうでなんだか薄っぺらく、ただの感想文みたいな、でもけっこう尤もらしい、最終的に「噺家になって、おのれの『らくだ』を極めたい!」みたいな締め方の決意表明みたいな卒論だったような気がする。青臭ぇな、おい。
よくあれで卒業できたものだ。先生の感想も「卒論とは言い難いが熱意は伝わった(棒)」くらいのボンヤリしたもの。まぁ「書いたら卒業させてやる」と言ったんだから約束は守ってくれた。
その論文がどこにも見当たらない。恥ずかしくて捨てたのか。実際、いま『らくだ』をやるのだが、学生がこねくり回した理屈が役に立つわけもなく、でもあの50枚を書くほどの熱量は、噺に取り組むには必要で。今の私の『らくだ』を聴いて学生の頃の私はどう評するだろう。糞生意気な川上くんは歯牙にもかけないだろうな。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2023年3月17日号