春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「卒論」。

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 どこに行ってしまったのだろう、私の卒業論文。

 2000年度に日本大学芸術学部を卒業したので確かに書いているはずなのに、どこにも見当たらない。そもそも書いたのか? 書いたよな。50枚くらいのまとまった数の原稿用紙と悪戦苦闘した記憶はある。何について書いたんだっけ。あ、落語について書いたんだ。

 放送学科のCM実習を専攻していたのになぜ「落語」? 4年次にはさほどCMに興味もなくなってたし、大学では落研とバイトと飲酒しかしてなかった私。とてもCMについて満足に論じることなどできないと思い「どうしたらいいすかね?」と担当のN先生に聞いてみた。

 N先生いわく「とりあえず書け。書けないなら書けるものを書け。とにかく書け。書いたら卒業させてやるから指定された枚数は書け。何でもいいから書け」とのこと。「じゃあ書きます。『落語』についてでもいいですか? それくらいしか興味がないもんで」「書けるのか? 書けるんだな? 書けるなら何でもいいから書け。書いて、そして頼むから卒業してくれ」。N先生、どんだけ書かせて私を卒業させたいのか? 残ってもらったら迷惑、ということか? ずいぶんとご挨拶だな。

 よーし。好きな落語のことだったらいくらでも書けるだろう、と原稿用紙に向かった。意気込んではみたものの、それまで落語を理論的に考えたりしたことのない私。とりあえず最初のページに「落語と私」と書いてみた。……あとは何も出てこなかったね。そのまま桂米朝師匠の名著『落語と私』を丸写しにしてしまおうかと思ったけど、さすがに思いとどまり……ちょっとゆっくり考えてみた。

 その頃、私は落研ながら、江古田の浅間湯という銭湯の2階を借りて月一勉強会(落語の)を開いていた。ちょうど『らくだ』という噺を覚えている真っ最中。古典の名作。素人の怖いもの知らず。「いいタイミングだからいろいろ調べてみっか」と『らくだ』を聴き込むことふた月。完全に頭の中がらくだ、らくだ、らくだ……。

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