鳥や空からの連想をゆたかにふくらませる著者が、49の地名の来歴を随筆に綴った。紹介される土地はどれも、自身が訪れたことのある場所だ。土地の持つ記憶を呼び覚ますように、著者は短い物語を添える。
 大分県にある鶴見半島は、ツルの渡りのコースから外れている。昔この半島の沖にいた灯台守が、嵐の夜に光を求めて灯台に激突した渡り鳥の死骸を集め、剥製を作りつづけた。500羽を超える剥製の中にツルはいない。だが、九州の広範囲にツルが渡っていた時代があったかもしれない。「鶴見という名まえが、唯一その可能性の名残だとしたら、わくわくするようで、それから少し寂しい」
 本県の薩摩街道にある三太郎越(さんたろうごえ)も紹介される。ここは難所続きで有名だが、「太郎」と擬人化することで、長年つきあっても手に負えない家族に対するような愛おしい気持ちが湧く。「その名を口にするたび、昔の旅人が、やれやれしようがない、もうひと頑張りしようか、という気分になってくるのが分かる」。著者の想いやイメージが加わることで、地名は広がりを増す。

週刊朝日 2013年6月28日号

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