書店をうろついていたら、見るだにイラッとする本を見つけてしまった。別冊宝島編集部編『小泉進次郎という男』。〈爽やかなルックスと明快な弁舌でいまや自民党「最大のスター」となった小泉進次郎。総理の血を受け継いだ彼の軌跡は、孤独と挫折と波瀾に満ちたものだった〉(巻頭言より)。なんだそれ!?
 とっさに『KOiZUMi─小泉純一郎写真集』(双葉社、2001年)を思い出す。この写真集には首相就任直後の元首相の名言奇言が論評抜きで載っており(「ほほよせて好きよなんでもあげるわとささやく君の若さいとしき」なんて短歌も)、首相のトンチキぶりが暴露されている点で、いま思うとけっこう批評的だった。
 では、この本はどうか。“別タカ”、おかしいです。〈政治家は言葉が命ですよ〉という進次郎の語録はまだしも、付随する賞賛のコメントがいちいち煩わしい。選挙戦デビュー時の逸話を評して〈やはり進次郎は、当時から只者ではなかったのだ〉。父とキャッチボールをしただけで〈親子関係が希薄な今、見習いたいものである〉。その父が総裁選に勝って「国民の力を感じた」という話には〈進次郎が言う“国民目線”は、このときから生まれたのかもしれない〉。まるで教祖扱い。自民党の機関誌でもここまではやらんでしょ。
 さらに気持ちが悪いのは、記事中で進次郎を讃えるほぼすべての人が実名なしの肩書だけなこと。政治評論家、永田町関係者、政治部記者、全国紙記者、民放記者、地方議員、東北復興支援団体、地元関係者、近所住民……。週刊誌名がずらりと並ぶ巻末の資料一覧を見て納得した。これは既刊の週刊誌記事を切り貼りして作ったお手軽な本なのだ。
 後継者として指名された際「もう家のことは任せた」と父にいわれた進次郎は〈家長としての手腕も相当なものだ〉そうで、兄弟仲もいい。かくて女性週刊誌の直撃には開口一番〈孝太郎を特集してくださってありがとうございます〉。記者は感激したという。チョロい国だね。

週刊朝日 2013年6月28日号