準大手証券会社に就職した女性が記事を読んでくれた手紙も記憶に残っている。彼女の会社では、四大を出ていても女性は、会議にも出させてもらえず、お茶汲みが仕事。男性たちが会議をしたあとの会議室の灰皿と湯飲み茶碗をかたづけ、給湯室で洗う。
<ひとり給湯室で、灰皿の灰を落して洗いながら、涙がこぼれました。私はどんなにかあの会議に出たかったことでしょう>
後に、前者の女性はCitibankに就職し、後者の女性はロイターで記者になった。
女性にとっては、まだまだ厳しい時代だった。しかし、そうした時代だったからこそ、リスクをとって、彼女たちは外に出ていったのだ。
タイムマシンがあるのなら、1989年に戻って、そうした女性たちを応援する記事を書け、と、まだ若くて何もわからなかった私に言ってやりたい。
最近、雇用均等法前に出版社に就職し、女性誌の現場を見続けてきたある編集者と知り合う機会があった。彼女が就職した1980年代、女性誌は「MORE」にしても「LEE」にしても、女性の新しい生き方を提示して、ひっぱっていこうという気概があった。
新しい生き方を提示し応援した女性誌とその誌面に胸を躍らせた女性たちの話は、次号で。
下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。
※週刊朝日 2023年3月17日号