とまあ、女性が外に出たいという気持ちに冷や水をぶっかけるような記事だったわけだ。今読んでみると、とてつもない傲慢さがあちこちに現れている。
たとえば、記事で現地の語学学校に留学してきた女性たちのことを<OLの多くはなけなしの結婚資金をはたいて、自費でここにやってきた>と描写しているのだが、なんで「なけなしの結婚資金」なんだ? 別に生涯独身でもいいじゃないかと、今なら思う。
日本企業の採用部門が「日本の企業を中途退職し留学した女性の採用はない」と答えているのを記事では紹介したりしている。で、語学留学で終わらず正規留学でビジネススクールにいったとしても、「約四年の月日をかけるのは、二十代後半の女性にとっては、結婚ということも頭におけばリスクも大きい」と追い打ちをかけているのだが、20代の若者だったはずなのに、なんとオヤジ的で狭い料簡だったことだろう。
92年からコロンビア大学に私は留学することになるが、そこで出会ったビジネススクールで学ぶ日本の女性は、全員、自費で1000万円以上のお金をためて来ていた。男の留学生は、全員企業派遣の社費留学。が、そこで出会った女性たちの、なんとさわやかで、自由だったことか。
そうした女性たちの活躍で、企業も少しずつ門戸を開き、今では、日本の大学の新卒でなければ採用しないなんていう企業はなくなった。
男女雇用機会均等法の施行が1986年。しかし、まだまだ日本の企業社会では、女性は差別され、その門戸は閉じられていた。そうした門を開いていったのは、私がこの記事で、冷たく突き放した幾多の若い女性だったのだ。
そのことに気がつくのには長い年月がかかるのだが、最初の気づきは、取材をした一人の女性からの手紙だったと思う。彼女はこう書いてきた。
──下山さんは、「語学留学」を否定的に描いていますが、私にとっては素晴らしい思い出です。色々な国の人と知り合うことができ、自分の可能性をもう一度考えるよい機会になりました。今後、下山さんが言うような「就職の役にたつか」どうかは、わかりません。でも、あの一年間がなければ、今の自分はない──。