東工大准教授でジェンダー問題が専門の治部れんげさんが、かつて私の単行本を評して「この人の筆遣いはジェンダー中立だ。ある人物が男性なのかなと思って読み進めていると、女性だったりする」との趣旨のことを書いてくれたことがあった。
確かに自分は、その人が男性か女性かということはあまり気にせずに、その人の能力に興味があるので、意識せずにそうした筆遣いになっているのかな、と思ったりした。
が、自分がそうしたスタイルになっていったのは、92年から93年にかけてコロンビア大学のジャーナリズムスクールに留学し、徹底的に個人の能力を大事にするその社会のありかたにふれて以降のことだと思う。
それ以前の週刊誌記者時代は、はっきり言って酷かった。
まだ入社3年目、花田紀凱麾下の週刊文春にいた私は、『20代、30代独身OLを蝕む OL留学症候群が急増中』なる記事を書いている。たまたま今、文春文庫で私の担当になっているIさんが「下山さんのことは、学生時代にOL留学症候群の記事を読んですごく印象に残っていたんですよ」というので、1989年4月27日号の週刊文春にあるその記事を読み返してみた。
普通、週刊誌の記事は、社員が書くものは無署名だ。が、この記事はなぜか私の署名記事で、6ページもページ数をとって、目次の扱いも左の柱。花田さんが、ちょっとルポっぽいものを書かせると面白いと思って、そうしたのだろうが、20代の私は気負っていた。
──バブル経済や円高に押されて女性が会社をやめて、どんどん海外に留学している。女性誌のコスモポリタンは「海外留学に成功する」という特集を組み、留学情報誌は、「帰国後は以前よりレベルアップした企業に就職するのが一般的」と煽っている。しかし、海外にわたる女性の多くは「正規留学」ではなく「語学留学」であり、キャリアアップどころか、履歴書に空白ができることで戻ってからの仕事にも苦労する──。