次は1歳時にわずか1000ドルで取引された馬がたどった数奇な運命を紹介しよう。その馬の名はメディーナスピリット。2018年に生まれた米国産馬で、父はジャイアンツコーズウェイ産駒だがG1未勝利のプロトニコ、母系にも特筆すべき活躍馬がいなかったメディーナスピリットは1歳時のウィンターセールで1000ドルで落札された。
その後はピンフッカーの下で育成され、2歳時のセールでは3万5000ドルで転売。名門ボブ・バファート厩舎に入厩する。するとクラシック前哨戦のG1サンタアニタダービー2着など安定した走りを繰り返し、21年5月のケンタッキーダービーでは見事に1位で入線してみせた。
ところがレース後の薬物検査で陽性反応が検出。ダービーの着順が確定しないまま出走を続けたメディーナスピリットは秋にG1オーサムアゲインステークス1着、G1ブリーダーズカップクラシック2着と好走していたが、12月に心臓発作で急死してしまう。しかも翌22年2月にはケンタッキーダービーの失格が確定。クラシックホースの栄誉を失い、汚名を競馬史に残すことになってしまった。
悲しい結末となったメディーナスピリットとは対照的に、アメリカンドリームを体現したのが今年のケンタッキーダービー馬リッチストライクだ。日本の競馬ではなじみがないが、アメリカでは出走馬に売買価格を設定して取引するクレーミングレースと呼ばれるシステムがある。
クレーミングレースに出るということは基本的には元の馬主から見切りをつけられたことを意味し、デビュー戦で大差の最下位だったリッチストライクも2戦目で早くもこのクレーミングレースに出された。そのレースを17馬1/4差で圧勝したものの、取引価格はたった3万ドル。以降も条件戦で4連敗し、今年4月に重賞初挑戦したG3ジェフルビーステークス(オールウェザー9ハロン)も3着まで。5月のケンタッキーダービーも直前で他馬が取り消したため最後の20番目の枠に繰り上がっての出走で、現地での単勝オッズも81.80倍の最低人気というまったくのノーマークだった。