ところで、馬の競りとひと口に言っても種類がいくつかある。それをざっくりと大別すると、当歳や1歳のうちに血統や馬体を基準にして取引されるもの(JRHAセレクトセールなど)と、デビュー前の2歳馬を実際に走らせて調教タイムを判断基準とするもの(HBAトレーニングセールなど)になる。

 傾向として良血の評判馬は1歳までに高額で売買され、血統などにセールスポイントが少ない馬は売れ残って2歳のトレーニングセールで最後のアピールをするケースが多い。このギャップを利用し、安く仕入れた1歳馬を調教で仕上げて2歳時に高く売るピンフッカーと呼ばれる者も特に海外では多い。時には1頭で1億円以上の利ざやを得ることもある立派な商売として成り立っているのだ。

 前置きが長くなったが、後にJRAの年度代表馬まで上り詰めたモーリスも、そうして取引された馬だった。

 祖父にグラスワンダー、父にスクリーンヒーローを持ち、母系は祖母メジロモントレーこそ重賞4勝の活躍馬だが母メジロフランシスは未勝利馬で、近親に活躍馬も見当たらないモーリスは、1歳時のサマーセールでわずか150万円で大作ステーブルが落札。1年間の調教を経て、2歳時のトレーニングセールでは公開調教で最速タイムを出したことが評価されてノーザンファームに1050万円で落札された。

 2013年の新馬戦をデビュー勝ち後、3歳時は伸び悩んだモーリスだが、4歳となった2015年からは本領発揮。4連勝で6月の安田記念を制すと、11月のマイルチャンピオンシップ、12月の香港マイルをも連勝してJRA年度代表馬に輝いた。翌16年も春に香港のチャンピオンズマイルを勝ち、中距離路線に挑戦した秋には天皇賞(秋)と香港カップも制してみせた。

 最終的には18戦11勝(G1は6勝)、獲得賞金はJRAだけで5億3624万円にのぼり、香港で稼いだ3534万香港ドル(当時のレートで約5億5000万円)を含めると、最初に150万円で取引された安馬が10億円以上を稼ぎ出したことになる。

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わずか1000ドルで取引された馬が…