
若手から中堅に差し掛かる頃、アゴネタで結構お仕事ももらえていました。でも、同期の石田靖君や内場(勝則)兄さんのように筋をまわす存在になりたい。そのためには、アゴネタでイジられるだけではダメだ。アゴネタを捨てて新たな道を目指さないといけない。
でも、アゴネタをやっていると安定して出番ももらえるし、収入もある程度確定する。でも、長いビジョンで見た時にそこから先の展望がないのではないか。でも、でも、アゴネタをやめたからと言って、必ず座長への道がひらけるわけでもない。
その迷いの中、思い切ってアゴネタをやめたんです。案の定、出番は激減し、アルバイト生活に戻りました。出番がなくなって空いた時間を活用し、いつも以上に舞台袖から新喜劇を見て、なんとか次のビジョンを練っていったんです。
そんな中、広島でやっていた寛平兄さんの新喜劇ツアーに欠員が出たと。そこに僕がブッキングされたんです。
これはもうやるしかない。そう思って、必死にやりました。その結果、寛平兄さんが「辻本は面白い!」とあらゆるところで言ってくださり、そこから筋をまわす方での出番が増えていった。そして、座長につながっていったんです。
今みたいにお膳立てされているものではないけれど、人生かける覚悟を持って次の道に踏み出す。それを寛平兄さんが拾ってくださいました。だからこそ「ホンマに進もう」と思ったら覚悟はせなアカン。その感覚が僕にあるのも事実なんです。
でも、新喜劇にはいろいろな考え方の若手がいますし、それは個々人の気持ちですからひとくくりに考えるのは乱暴です。ただ、僕の考え方からすると「せっかくこれだけ恵まれた状況を作ってもらってるんやから、今必死にやらずしていつやるねん」という思いが出てくるのもあるんですよね。
繰り返しになりますけど、人それぞれの感覚があるし、目標もある。みんなに同じ方向を向けというのはそぐわないことは分かっているんですけど、自分の経験からすると、この寛平兄さんの大きな愛にもっと食らいついていく人がたくさん出てきてもいいんじゃないかと強く思います。