辻本茂雄さん(撮影/中西正男)
辻本茂雄さん(撮影/中西正男)

 正味の話、僕は座長の頃から他の座長に比べてけいこが長いと言われてきました。ただ、それは何よりお客さんのためで、その日、劇場に来てくださったお客さんにとっては初日であろうが何であろうが関係ない。

 もしかしたら、その日見た新喜劇が最初で最後のナマの新喜劇になるかもしれない。そう思ったら、常にベストのものをお出しする。それは当然やろと思ってやってきました。

 それをコロナ禍だから思ったのではなく、昔から思ってやってきた。その自分を再認識できたのは、一つ、コロナ禍でも前向きな部分やったんかなとは思います。

 妥協してはいけない。その感覚の奥底にあるのは僕がもともとイロモノ(漫才)出身だったからというのも大きいと思います。

 漫才の賞レースで戦う。本当に熾烈な戦いですし、生半可なことでは勝てません。一方、新喜劇というのは賞レースがあるわけではない。

 みんなで作るものなのは事実だし、仲の良いことは悪いことではないんですけど、それが勝ってしまうとお見せするもののクオリティーに関わってくるんじゃないかと。

 家族的な空気は大切ですけど、ライバル心まで失ってしまうと組織自体の成長を妨げるところもあるんじゃないか。僕の来し方もあいまってかもしれませんけど、その感覚はずっとあったんです。

 今年の2月から(間)寛平兄さんが新喜劇のGMになっていろいろな改革を進めてらっしゃいます。

 若手向けの新しい劇場を作ったり、個人のネタバトルをしたり、新たなスター作りを目指す試みをされています。

 ただ、これはね、僕が言うのはホンマにアレなんですけど、みんなが寛平兄さんの思いをどこまで感じているのか。それを思うところもあります。今のありがたさや意味を本当に分かっているのかと。正直、疑問に思うこともあります。

 僕にとって寛平兄さんは尊敬する先輩であると同時に恩人なんです。僕も以前はアゴが出ているという“アゴネタ”で「おい、ペリカン!」みたいに言われるギャグをやってましたけど、そこから座長につながる転機をくださったのが寛平兄さんなんです。

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寛平兄さんの思いをどこまで感じているのか