写真はイメージ(GettyImages)
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 今や、体外受精で産まれる子どもは14人に1人。約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代だ。にもかかわらず、職場での理解にはまだまだ高いハードルがある。短期集中連載「不妊治療の孤独」第3回前編では、職場の上司の偏見との戦い、治療と仕事の両立の葛藤を追ったが、家族や友人など、むしろ近しい人たちから理解されない辛さもあるという。

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 不妊治療がどのようなものなのかを理解していない人も多く、悪気はなくとも当事者にとってはキツい一言となってしまったり、治療と仕事との両立に悩む声も多い。働く女性患者が多く訪れる不妊外来で多くの患者と向き合う千本友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)は言う。

「仕事と治療との兼ね合いに悩まれる方は依然として多い。働いている場合、どうしても休みを取って通院する必要が出てきますが、治療について職場に言えないという方もいます」

 4月からの保険適用拡大によって患者数が増え、病院での待ち時間が長くなっている傾向もある。

 不妊治療の人気クリニックとして知られ、患者の9割近くが体外受精に進むという杉山産婦人科では、仕事を続けながら通院できる体制として、朝8時から受付をスタートし、週3日は夜7時まで診療受付を対応。土日祝日も人工授精や体外受精の診療を受け付けている。不妊治療を行う病院の中でも格段に手厚い診療体制を持つものの、4月以降は患者が増え、待ち時間が延びている傾向にあるという。

「不妊治療は通院回数が多い上に、長期間に及ぶため、仕事を辞めざるを得ないケースが少なくありません。仕事をしながらでも不妊治療を受けやすい環境作りのために、私たちも国への働きかけを行っていますが、現状ではなかなか改善されていない。にも関わらず、患者さんに“明日もう一度来られますか?”と聞くと、9割以上が“大丈夫です”と答えます。子どもが欲しいという一心で、ご自身で何とか仕事をやりくりして通われているのが実情ではないでしょうか」(杉山力一理事長)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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