サイトウが引き戸を開けると、犬が飛び出してきて階段をかけ降りていきました。
続いておとんが部屋から飛び出してきました。左目の上が血だらけです。
「おい、この状況を教えてくれ!」
おとんはサイトウの胸倉をつかむと、叫びました。
「おい、状況を説明しろーーーーーーーーー」
サイトウが正直にすべてを告白しました。
「凶暴な犬のくつわを外してお父さんの部屋にいれたので、たぶんその犬がお父さんの顔面を噛んだんだと思います」
おとんが、いきなりサイトウのことを殴りました。隣にいた僕のことも殴りました。
おとんにゲンコツで殴られたのは、生まれて初めてのことでした。
それから1週間ほどして、教会の懺悔の日がやってきました。
懺悔というのは、自分が犯してしまった罪を神父さんに包み隠さず告白し、神様の許しを得て、人生の方向を修正してという企画です。
大城家が通っていた教会では、年に1回、決められた日に、家族ごとに懺悔をするのが恒例になっていました。
懺悔の当日、家族そろって教会に出かけて行くと、やがて大城家の順番が回ってきました。
懺悔室のドアを開けると、部屋の中に小窓のついた箱みたいなものがあって、その箱の中に神父さんがいます。神父さんは小窓を開けて、信者ひとりひとりの懺悔を聞いてくださるのです。
トップバッターは僕でした。
「あなたの悪い行いを言いなさい」
僕はサイトウと一緒におとんの部屋にのら犬を入れたことを正直に告白しました。
するとなぜか、小窓がパカっと閉まりました。
「神父さん、神父さん?」
小窓が開くと、神父さんはなぜか後ろを向いて、ぶるぶる震えて笑いをこらえているようでした。
2番目はおとん、ご本人の登場です。
おとんは声が大きいので、待機している僕たちの方まで声が響いてきます。
「あのー、あのねー、先日、夜勤やってまして、あのー、昼間寝てたら、息子がね、凶暴なのら犬を捕まえてきて、僕が寝てる部屋にね、入れたんですね。で、その凶暴な犬がね、寝てる僕の顔を噛みまして、顔面が血だらけになりまして、息子を殴ってしまったんです。ここ噛まれた後なんですけど、神父さん見えますかねー、ここ、ここ、ここね」