サイトウが言いました。
「あの犬、どうやってご飯食べるんやろ」
僕たちはくつわの犬の後をつけることにしました。
犬は僕の家の前をスタスタと通り過ぎると、近くの路地に入っていきました。おばちゃんがくつわの両脇にある鍵をかちゃりと外して、犬に水とご飯をあげています。
「あー、そういうことやったんか」
サイトウと僕は感心しながら、その様子を眺めていました。
その頃も、おとんは夜勤の仕事をしていました。
昼間、つまり勤務時間外のおとんはとても神経質で、部屋に太陽の光がちょっとでも入ると眠れないと文句を言います。
「ワシ、真っ暗やないと眠れんのや」
そこで、おとんは昼間から雨戸を閉めて眠っていました。そうすると、自分の手も見えないくらい、部屋の中が真っ暗になるのです。
おとんが雨戸を閉めて眠り始めると、間もなく猛烈なイビキが聞こえてきます。
「ウェーイっ、ウェーイっ、ウェーーーーイっ」
まるで、外野を守っている野球選手のかけ声みたいです。しかも、部屋の外まで聞こえてくるほどの大音量です。
「ウェーイっ、ウェーイっ、ウェーーーーイっ」
ある日、例によってサイトウと家の前で遊んでいると、またくつわをはめた犬が通りかかりました。すると、何を思ったのか、サイトウがくつわの犬に飛びついて捕まえてしまったのです。
「サイトウ、なにすんねん!」
僕があっけにとられてると、サイトウは、(ハトヤのマグロ少年のように)くつわの犬を胸に抱きかかえたまま、僕の家の玄関に入っていきます。そして、おとんが寝ている二階の部屋を目指してまっしぐらに階段をのぼっていきました。
「サイトウ? 何してるんや。サイトウ?」
「この犬、入れる」
サイトウはおとんの部屋の引き戸をスッと開けると、犬のくつわをカチッと外して犬を真っ暗な部屋の中に放り込んで、引き戸をスッと閉めました。
「ウェーイっ、ウェーイっ、ウェっ!? うぎゃーーーーーーーーーーっ!!」