不妊治療が広がり、当事者の声が聞かれるようになったからこそ、治療のスタートが早くなっている動きもある。

「以前に比べて、不妊治療のスタートが早くなってきている印象」

とは、産婦人科医の宋美玄医師(丸の内の森レディースクリニック)。不妊治療の広がりを受け、「妊娠を考えるなら早く行動に移さないと」と、20代のうちからクリニックを訪れる人が増えているという。

「卵子の老化についての認識も広がる中で、“若いから不妊治療は不要”という認識が覆ってきています」(宋美玄医師)

必死で治療に向き合い、その体験を隠すことなく声をあげた人の動きによって、偏見が少しずつ緩和され、治療へのハードルも下がっている面があるのかもしれない。

 不妊治療——そこにはさまざまな思いや葛藤が交錯する。治療が広がる現在も、依然として話しづらいテーマであるがゆえに、当事者は深い悩みを抱えて孤立しがちだ。多様性が叫ばれて久しい時代、妊娠や出産も、はたまた子どもを持つか持たないかも、それぞれの考えや形があってしかるべき。妊活も不妊治療も、「こうあるべき」から逃れた時、より生きやすい世の中になるのではないだろうか。(松岡かすみ)

【この連載の第1回目を読む→】「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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