写真はイメージ(GettyImages)
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 こうした経験を機に、どこか吹っ切れた自分がいた。子どもを持つことを諦めたわけではなかったが、「このまま自然に任せよう」と思えた。雅代さんは自然と、治療から離れていった。同時に、自分のように辛い経験をしている不妊治療の当事者をサポートする側にまわりたいと願うようになった。

 その後、一念発起してヨガインストラクターの資格を取得。さらに不妊当事者の心のサポートを行うべく、心理やカウンセリングを学び、不妊ピア・カウンセラーとしても活動するようになった。雅代さんは、治療中の失敗体験から、自分のことを否定したり、女性として失格だと思い込む思考の癖がついていた。だが真剣に学びを深める過程で、自分だけが抱いていると思っていた治療中の“黒い感情”やネガティブな思いは、妊娠を望んで頑張っている時期特有の自然な心理なのだと知り、浄化される思いだった。

 気づくと、妊娠だけを朝から晩まで考えていた10年から解放され、今の自分を受け入れることができていた。雅代さんは現在、妊活ヨガセラピストとして、ヨガやカウンセリングを通じて、不妊当事者を支援する活動を行っている。

「子どもが欲しかった事実は一生あるし、消さなくても良い。子どもが欲しくて頑張った時間は、人生において何よりも頑張った時間で、私にとっても宝物です。心の底から望んでも思い通りにいかないこともあって、それでも自分の気持ち次第で目に見える景色を変えられるのだと気づけました」(雅代さん)

 夫はこうした雅代さんの変化を、ずっとそばで見守ってきた。治療から解き放たれる過程の中で、落ち着いて夫と話すと、辛かったのは自分だけではなく、夫も辛いながらも自分を支えてくれていたことを実感した。

 夫は夫で、治療中に追い詰められ、変わっていく雅代さんを前に、養子という選択肢も考えていたことを後から知った。今は「夫婦二人で幸せになろう」と互いを支え合いながら、新たな一歩を踏み出している。

「不妊は夫婦にとって困難な問題ですが、絆も深まると実感しています。今が辛い人も、今がずっと続くわけじゃない。不妊の悩みはどうしても一人で抱え込んで追い詰められがちですが、今はオンラインでのカウンセリングも手軽にできる時代。私のように心身が壊れてから気づく前に、うまく利用してほしい」(雅代さん)

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不妊治療で難しい「やめどき」