不妊治療で目指すものは、言わずもがな妊娠・出産。だがどれだけ願っても、それが叶わないことがある。治療を始めてステップアップを重ね、何度も挑戦するが、妊娠できない――。揺れ動く感情と戦いながら、「次こそは」と信じて挑戦を繰り返すうちに、「もしかしたらこのまま妊娠できないのではないか」という不安がよぎる瞬間は、当事者なら誰もが持つ経験かもしれない。だが治療をやめる選択肢が頭に浮かんできても、やめどきを決めるのはとても難しいのが現実だ。
「私たちからは、治療をやめる選択肢の提示はしても、“やめましょう”と勧めることはありません」
とは、これまで数多くの患者を診てきた杉山産婦人科の杉山力一理事長。治療を始める際には、各種検査を通じ、体の状態や妊娠の可能性について数字をもとに説明するが、治療のやめどきを決めるのはあくまで患者自身。中には妊娠の可能性がかなり低くても、「通うことで落ち着くから」と長年にわたって通院を続ける患者もいるという。
「やめるか続けるかは、患者さん自身が納得して決めることが大事だと思っています。やめどきは非常に難しい問題ですが、保険適用の範囲内を一つの目安として、年齢や回数の上限を決めるという方もいます」(杉山理事長)
自分自身が納得して決断を下すには、時間も必要だ。不妊外来で日々患者と接する千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)は言う。
「ギリギリになってからやめどきを考えると、現実をなかなか受け入れられず、強い絶望感を抱く方もいる。そうならないためにも、やめどきはなるべく早い段階から夫婦で相談し、時間をかけて納得してほしい」
とは言え、不妊治療のやめどきがなかなか決められず、悩み苦しむ人たちは数多い。「そんな人たちを、これまで数え切れないほど見てきました」とは、自身も不妊治療をやめた経験を持ち、現在不妊当事者をサポートするNPO法人Fineを運営する松本亜樹子さん。松本さんによれば、不妊治療を長年にわたって頑張っている人に共通することとして「真面目で努力家」という面があるという。