「これまでの人生で、努力して夢を叶えてきた方が多く、不妊となって初めて“人生で努力が報われないこともある”という壁にぶつかってしまう。頑張れば努力は必ず報われるという経験値を持っているからこそ、報われないのは“自分の努力が足りないせいだ”と思ってしまい、さらに自分を追い込んで頑張ってしまう」(松本さん)

 そうした中で、知らず知らずのうちに自分の感情に蓋をし、治療の「結果」ばかりにこだわるようになる。無論、頑張った分、結果を出したいというのは誰しもが持つ感情だろう。だがなかなか思うようにいかず、自分を見失いそうになった時こそ、原点に立ち返る発想が大事だという。

「“結果を出したい”という気持ちは当然のことですが、“妊娠しなかった”ということもまた一つの結果。“妊娠はしなかった”けれど、その後の人生は自分次第で切り開ける。今、治療中の方の多くも、きっと子どもを得ることだけが人生の目的ではないはずです。治療によって“結果を出せなかった患者”で終わるのではなく、“今の生活という結果を得た”という認識に切り替えられたら、その後の人生のスタンスが随分違ってくる」(松本さん)

 不妊治療中には、妊娠できないことで自己否定や自己嫌悪の感情が強く生まれ、自分のコントロールが効かなくなるケースも少なくないという。さらにパートナーや家族、友人など、近い存在の人にこそ本音が言いづらいという場合もある。そんな時は、カウンセラーを頼るのも一つだ。最近は不妊治療を行う病院やクリニックでも、カウンセラーの窓口があるところも増えてきた。松本さんが立ち上げたNPO法人Fineには、自身も不妊治療の経験を持つピア・カウンセラーもいる。

「私は大丈夫と思っている人ほど、ギリギリのところまで頑張った結果、心が折れてしまうことがある。なかなか周囲に話しづらいテーマであっても、見ず知らずの人に話すことで楽になれる面もある。女性のみならず、治療中に孤立しがちな男性もぜひ気軽に利用してほしい」(松本さん)

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不妊治療のスタートが早くなっている印象も