また高校生活の3年間という限られた時間が、かけがえないものであることを痛感させられることもあったという。

「2019年制作の愛知・東邦高『めっ声(こえ)東邦』は、制作に関わった生徒が一度も演奏することなく卒業しました。学校の予定に加え、コロナ禍が重なったからです。また2018年制作の千葉・八千代松陰高『勝つぞ八千代松陰』は魔曲になりつつありました。翌2019年夏の千葉県予選は同曲と共に快進撃を続け準優勝。今後に期待されたのですが、コロナ禍で応援活動そのものができなくなりました」

「制作曲が表に出ないのは残念ですが、我々には時間があります。しかし生徒たちには3年間の在校期間しかありません。自ら関わった曲が陽の目を見なかった場合の失望感は比べ物にならないほど大きいはず。応援楽曲制作を通じ、生徒たちの純粋で熱い思いが伝わってくるだけに、何とも言えない気持ちです」

 今夏の甲子園は観客数制限もなく、応援も声出し禁止を除いては通常に近い形で行われている。「日常が戻ってきた」と言われるが、そういった日常を感じることなく高校卒業した生徒も多数いることを忘れてはならない。

「いつの日か応援が完全解禁された時に、制作に関わった人、現役生徒みんなで大声で歌って欲しい。その時に自分たちにとっての魔曲、青春歌になるはず。そういった意味では、全ての曲が魔曲かもしれないですね」

「応援は素晴らしい」が信条のジン氏はコロナ禍の完全収束を心から願っている。応援が以前のようにできる日を待っている。そうなった時に初めて、ジン氏の制作楽曲も魔曲入りをするはずだ。

「コロナ禍で新しい応援の形も生まれ始めています。吹奏楽部の人数が少ない学校にとっては、録音音源という選択肢もできたことはマイナスばかりではなかったと思います。応援にとっても今は過渡期。コロナ禍を乗り越えた先には新たな形の、輝かしい応援が待っていると信じています」

 応援界の未来は明るいと締めくくってくれたジン氏が、これまでに培った応援のイロハ、ノウハウ等をまとめた『野球と応援スタイル大研究読本』(株式会社カンゼン)が8月9日「野球の日」に発刊された。ここまでの応援家活動を振り返りつつ、応援について考察した一冊にも注目して欲しい。(文・山岡則夫)

●ジントシオ(作曲家)

1980年5月18日、東京都出身。1993年(当時中学1年生)で日本ハムファイターズの応援団員となり、14歳にして当時チームを代表する選手応援曲を手がける。その後、高校入学後は千葉ロッテマリーンズ応援団員として楽曲制作に尽力。高校卒業後、活動の場を韓国へ移す。韓国時代はロッテジャイアンツ応援団に所属しながら、スカバンド「Lazy Bone」のトランペットを担当しプロミュージシャンとして活躍。2002年帰国後、2002年~2004年は千葉ロッテマリーンズの応援活動。一時応援の世界から離れるも2010年千葉ロッテマリーンズ応援団長に就任(2015年まで)。2018年から2021年まで4年間東北楽天ゴールデンイーグルスの応援プロデューサーとして活動した。2016年以降、プロ野球という枠組みを超え高校野球、大学野球 さらにはもっと広いスポーツ全般(Jリーグ、Bリーグ等)においての『音楽』『応援』を主体とした制作活動へと活躍の場を広げる。2021年7月ロケットミュージックより吹奏楽用譜面「ジントシオ作品集vol.1,2」を発売。

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